日本骨代謝学会

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1B型BMP受容体(BMPR1B) は骨量維持とBMP−SMADシグナル活性において、BMPR1A、ACVR1とは異なる機能を担っている。

Deletion of BMP receptor type IB decreased bone mass in association with compromised osteoblastic differentiation of bone marrow mesenchymal progenitors in mice
著者:Ce Shi,Ayaka Iura,Masahiko Terajima,Fei Liu,Karen Lyons,Haichun Pan,Honghao Zhang,Mitsuo Yamauchi,Yuji Mishina,Hongchen Sun
雑誌:Scientific Reports 2016 Apr 6;6:24256. doi: 10.1038/srep24256.

史册・三品 裕司
ミシガン大学歯学部長Dr. Laurie McCauley より最終セミナーで表彰を受ける筆者

史册・三品 裕司
母校吉林大学口腔医学院での博士号授与式。ミシガンでの指導教官Dr. Yuji Mishina (左)、吉林大学での指導教官 Dr. Hongchen Sun (右)と。

論文サマリー

 骨形成タンパク質(BMP)の1型受容体にはBMPR1A、BMPR1B、ACVR1の3種類があり、それぞれBMPリガンドと結合し、シグナルを伝達することが知られている。このうちBMPR1AとACVR1については、全身性ノックアウトでは原腸陥入時に致死となり、骨芽細胞特異的ノックアウトでは(予想に反して)骨量が増加することを我々は報告してきた。BMPR1Bは全身性ノックアウトでは致死とならず、四肢末端部の骨の伸長に影響が出ることが報告されていたが、骨量への影響は調べられていなかった。そこで、今回我々はBMPR1Bノックアウトマウスについて骨の表現型を観察し、骨芽細胞、破骨細胞での機能変化を調べた。8週齢のオスで骨量の減少が観察されたが、これは一過性であり、新生児と11週齢では減少は見られなかった。またメスでは有意差は見られなかった。ノックアウトマウスの 骨芽細胞の骨形成能、破骨細胞の数と活性は対照群と同レベルであり、これらの変化によって 骨量が減少したのではないと結論された。頭蓋骨から得た骨芽前駆細胞ではBMPR1Bの欠損によりBMP-SMADシグナル活性レベルは対照群と同程度であったが、タイムコースは前半にシフトした。このことの生物学的意義は今のところ不明である。一方、骨髄から得た間質細胞ではBMPR1Bの欠損によりBMP-SMADシグナル活性の低下と培養系での分化レベルの低下が観察された。これがBMPR1Bノックアウトマウスで一時的に骨量が減少することの原因であると考えられる。これらのことから、BMPR1Bはシグナル伝達、骨量の制御においてBMPR1A、ACVR1とは異なる役割を果たしていることが示された。
(原文:史册(しぃつぁ)、翻訳:三品裕司)

史册・三品 裕司
3種類の1型BMP受容体のグローバルノックアウトマウスの表現型 BMPR1Bノックアウトマウスは致死とならない。

史册・三品 裕司
3種類の1型BMP受容体ノックアウトの骨の表現型 BMPR1A とACVR1の骨芽細胞特異的ノックアウトは骨量増加をもたらす。

史册・三品 裕司
3種類の1型BMP受容体ノックアウトによる前骨芽細胞でのBMP-SMADシグナルの変化。ACVR1とBMPR1B のノックアウトではシグナルにほとんど変化がない。

史册・三品 裕司
モデル図。BMPR1Bを介するBMPシグナルは骨髄での未分化な細胞において骨芽細胞の分化促進に効いており、骨芽細胞による破骨細胞の分化促進への寄与は少ない。

著者コメント

 私、史册(英語ではShi Ce、しぃつぁと読みます、つぁがファーストネームです)はミシガン大学歯学部の Yuji Mishina 研究室で2年と1ヶ月半研究しました。この間、私は大変有意義な日々を過ごすことができました。

 渡米前は1年間の滞在の予定でいました。最初の3ヶ月で面白いデータがさっとでました。次の3ヶ月はそれが再現できず、さっと去っていきました。その次の3ヶ月はフラストレーションとともにすっとんでいきました。そこで滞在をもう一年延ばすことにしました。1年半たったころに大きな進展がありました。でもそのころ突然、故郷に残した家族が恋しくなり、中国へ一刻も早く戻りたいと思うようになりました。しかしながら、プロジェクトを完成させるまではそれはかないません。2年目が終わるころ、最後のキメ、シメの実験を完了させるため、滞在を再び延長することにしました。滞在期限はケリがつくまで。この先の見えない延長に私はしばしば望郷の念にかられ、遥かなる故郷へ届かぬ叫びを送ったものでした。最終的に思うような結果が得られ、想定していたより1ヶ月早く帰国できそうだったのですが、航空券を予約して出発の1週間前になったところで実験のスケジュールがずれ、再々度の延長の危機が訪れました。そこからは 七転八倒七転び八起き綱渡りの毎日、ようやく予約した北京行きの搭乗客となることができたのです。これが私の2年と1ヶ月半のミシガンの道中記です。

 Dr. Yuji Mishina は厳しくそして素晴らしい(原文はcrazy)研究者です。いうまでもありませんが、私はDr. Mishinaからたくさんのことを学ぶことができ、そしてDr. Mishinaを大変敬愛しています。在米の間に体験できた研究生活は私にとって間違いなく大きな財産となっています。また、Dr. Mishinaは大変ユーモアの造形が深いかたです。私はDr. Mishinaとのディスカッションが好きです。でもほとんどは彼のほうがしゃべっているのですが(そんなことはない、訳者註)。研究のうちそとを問わず、いつも必ず何か新しいことを学ぶことができました。がっかりしているときは配慮深く選ばれた言葉にいつも励まされました。退屈しているときには興味深いプラクティカルジョークを披露してくれました。間違ったときには大変厳しく、また先が見えなくなったときにはディスカッションのなかでいつのまにか 正しい方向へ向かっている自分がいました。正真正銘の素晴らしい研究者であり、メンターであると思います。Dr. Mishinaは私の母校の客員教授になられたので、大変幸福なことに、これから毎年、年に何回かDr. Mishinaに再開することができます。また、近い将来、Dr. Yuji Mishinaの研究室を再訪したいと思っています(いつでもおいで、訳者補)。
(原文:史册(しぃつぁ)、翻訳:三品裕司)

 1990年後半から2000年にかけてBMP1型受容体のノックアウトマウスが報告され、1A受容体と1B受容体は構造や培養系での機能がほぼ同一にもかかわらず表現型が全く異なるのがずっと気になっていました。今回の報告で20年間のどにつかえていたものが取れたような気分です。このプロジェクトは以前このコーナーでも紹介させていただいた井浦文香博士(http://www.jsbmr.jp/1st_author/156_aiura.html)に初めてもらったのですが、対照群とノックアウトでいろいろ差はでるものの、表現型の説明につながるようなロジックが演繹できず、刀折れ矢尽きる状態でした。引き継いだ史册博士もデータの山は築けどなかなかロジックにつながらず、それが12枚にのぼるサプリメントの図の理由になっています。長恨歌を彷彿とさせる史册博士の奮闘で骨髄間質細胞に差異を見出し、一応の結論を得ることができました。(ミシガン大学 歯学部生物科学材料学科 遺伝発生学研究室・三品 裕司)