日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 井浦 文香

メカニカルストレスとBMPシグナルは骨芽細胞で相乗的に働き、海綿骨の骨量増加と力学的特性の向上をもたらす

Mechanical Loading Synergistically Increases Trabecular Bone Volume and Improves Mechanical Properties in the Mouse when BMP Signaling Is Specifically Ablated in Osteoblasts.
著者:Iura A, McNerny EG, Zhang Y, Kamiya N, Tantillo M, Lynch M, Kohn DH, Mishina Y.
雑誌:PLoS One. 2015 Oct 21;10(10):e0141345.
PMID: 26475289
  • 加重運動
  • BMPシグナル
  • コラーゲン

井浦 文香
三品裕司先生と筆者。

論文サマリー

骨のホメオスタシスは、多彩な因子によって制御されており、運動や成長因子によって大きく影響を受けることが知られている。しかしながら、運動と成長因子のシグナル伝達経路との相互作用に関しては実際わかっていないことのほうが多い。様々な運動の中でも加重運動は骨格に機械的負荷をかけることによって骨の質を保つのに有効であると考えられている。

我々はすでに、BMP type1受容体のひとつである BMP IA型受容体を骨芽細胞特異的にノックアウトしたマウス(cKO)の下肢骨では、破骨細胞が抑制されることで海面骨骨量が増加することを報告していた。一方、cKOの骨では力学的特性が低下することを見いだしており(論文投稿中)、皮質骨の穴(間隙)の容積が増えていることがひとつの理由と考えている。今回我々は同cKOマウスを用い、加重運動の影響についてBMP IA受容体を通じたBMPシグナル伝達系との関係を調べた。雄マウスを対象とし、生後9週よりBMP IA型受容体を骨芽細胞特異的にノックアウトし、生後11~16週の間、マウス用のトレッドミルで毎朝30分間走らせた。その結果、cKOマウスの海面骨骨量は加重運動によってさらに増加し、骨の力学的特性を示す指標のうち、柔軟性や硬度の増加が確認された。骨量増加は破骨細胞の更なる減少で裏付けられた。加重運動によりcKOマウスの大きかった皮質骨の穴の容積が正常レベルまで減少したことも確認され、これが骨の力学的特性改善の理由だと考えている。また力学的特性の改善に対しては、透過型電子顕微鏡(TEM)で皮質骨のミクロな世界に目を向け、コラーゲン繊維の太さにも注目した。これらのことから、BMP IA型受容体を介するBMPシグナルを抑制することで、骨芽細胞の機械的加重による反応を増加させその結果として骨量の増加と力学的特性の向上がおこることが示された。

井浦 文香
トレッドミル(ランニングマシン)を走るマウス達、近位脛骨の代表的組織写真(マッソントリクローム染色、青い部分が海綿骨)と走査電顕写真。マイクロCTによる骨量(BV/TV: Bone volume fraction)と透過電顕によるコラーゲン繊維の直径の測定値を組織写真左上に表示。

著者コメント

もともと手術が好きな産婦人科医で基礎研究とは無縁の生活、私の渡米4年間は苦境から始まりましたが、3年目にAnn Arbor-Dexterハーフマラソンを完走し、新しいラボを探しMishina labの戸を叩いたときから、生活は活き活きとして魅力あるものに変わっていったように思います。初めてこのラボを訪れたとき言われたのが「このアメリカという社会は、5%の上層部の知能層によって動いている。きみはその5%に入れるか?入れるならこのラボで雇おう」かなりぎくっとするもここはアメリカ、多少のはったりが必要、「Yes, I will.」私のMishinaラボ勤務が決まりました。
ひとり帰ろうとした真冬の夜中、大学身分証をラボに忘れ、緯度が北海道より北のミシガン アナーバー、零下16度の雪の中閉め出され、パトカーに来てもらったというユニークな経験もあります。ひとり息子を授かった幸せな経験をできたこともこのラボでの思い出と重なっています。悪阻がひどく唾吐き用のペットボトルを片手にアニマルルームに通い、トレッドミルで走るのをさぼるマウスのお尻をペンで突っついたり、産後は時間がなくnurse roomで搾乳器つけてランチしたりというのもいい思い出です 。
1年半の実験データを持ち帰り病院勤務中もデータ解析を続け、帰国の後3年半の月日を経てこうして研究報告をすることができました。何より感謝すべきは我がボス三品裕司先生です。この方は頭脳明晰なだけでなく、しぶとさでは定評のある自分を遥かに超えた根気強さの持ち主です。一筋縄ではいかない予想外の実験結果ばかりで解釈に至るまで何時間も話し合い、合同ラボの発表の前には準備に夜中3時までつき合ってもらいました。基礎研究で培った系統立てる考え方、追求心、臨床と基礎研究を結びつける思考経路はさることながら、目標に至るまで根気強く続ける心意気、非常にかけがえのないものを得ることができたと思っております。 (University of Michigan, Department of Biologic & Materials Sciences、神奈川県立がんセンター 婦人科(現在 勤務)・井浦 文香)

井浦 文香
The Mishina lab当時のメンバーとDr. Jian-Guo Geng