日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

骨サミット

TOP > 骨サミット > 2020年

2020年 WEB座談会
骨ミネラル代謝研究・臨床における国内外の動向

司会
福本 誠二 先生(徳島大学先端酵素学研究所 藤井節郎記念医科学センター 特任教授)

座談会メンバー
網塚 憲生 先生(北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座硬組織発生生物学教室 教授)
斎藤 充 先生(東京慈恵会医科大学整形外科 教授)
妻木 範行 先生(京都大学iPS細胞研究所増殖分化機構研究部門細胞誘導制御学分野 教授)

(左上から時計回りに)福本先生、斎藤先生、妻木先生、網塚先生
(左上から時計回りに)福本先生、斎藤先生、妻木先生、網塚先生

福本今年は残念ながら学会もそうですが,この座談会もWEBでの座談会になりました.よろしくお願いいたします.

福本 誠二先生
福本 誠二先生

福本それぞれの先生方にお話をお聞きしていきたいと思います.まず,斎藤先生といえば骨質です.最近は骨粗鬆治療薬の治験にもBMDをサロゲートにしようという話もありますし,骨粗鬆治療薬の骨量増加作用と,その後の骨折リスクの低下が関係するというデータもいくつかでてきています.今後,骨質をどうやって臨床的に活かしていくかということについてまずお話いただきたいと思います.

斎藤 はい.骨強度に及ぼす骨量・骨密度の貢献度というのは当然大きいわけですので,骨密度を高めることは骨折防止には必須であると思います.骨強度を想定するツールとして臨床現場で使用可能なのは骨密度測定です.さらに,DXA装置で骨密度を測定すると,取り込まれた情報をもとに骨の微細構造の指標であるTrabecular Bone Scoreや,Hip Structure Analysis などの情報を得ることができます.骨質を規定する因子の「構造学的な質」は評価できると言えます.しかし,骨密度と構造学的な質は,骨の新陳代謝機構である骨リモデリングに制御されているため,骨吸収亢進優位の骨粗鬆症例において,骨吸収抑制剤による治療を行えば,骨密度ども構造学的な骨質も改善します.しまし,私共は骨リモデリングとは異なる機序で劣化する材質学的な質の重要性を報告してきました.
骨密度や骨構造のみならず骨の材質の良し悪しの重要性は,基礎実験では摘出骨の検討がJBMRに報告されています.同研究では,骨強度は,骨密度や微細構造,そして,骨の材質を規定するコラーゲンのAGEの形成に相関すること,さらに.これらの三つの因子をかけ合わせると,強い骨強度の予測ができることが示されています1).また,私共はサル骨粗鬆症モデルに1年半,骨粗鬆症治療薬を投与し,椎体の骨強度変化に影響を及ぼす独立した因子を解析したところ,骨コラーゲンの成熟化やAGEsの蓄積が独立した因子になることを明かにしました2,3).臨床研究においても骨質,特に材質の評価が重要であることが,本邦の大規模臨床試験A-TOP4で示されました4).同研究では骨粗鬆症患者にミノドロン酸あるいはエストロゲン受容体モジュレーター(SERMs)を投与し,その後の骨折発生に及ぼす危険因子を解析しています.これまでに私共はミノドロン酸が骨密度,微細構造を強く改善するに対して,SERM製剤が,骨コラーゲンのAGEs,ペントシジンを低下させ骨強度を改善することをサル骨粗鬆症モデル,家兎骨粗鬆症モデルで明らかにしてきました5,6).こうした非臨床試験の結果を反映するように,治療開始時,骨の材質マーカーであるペントシジンが高値の症例では,ミノドロン酸のSERMに対する優位性が消失していることがわかりました4).すなわち,「骨密度さえ高めて入れば骨折防止ができるから良いじゃないか」と患者集団を平均値として評価していると,材質低下を有する多様な患者集団は取りこぼしがでてくると言えます.こうした違和感は日常で日々,患者さんを見ている実地臨床医にこそ感じる現実であると思います.ある種,エビデンスの闇の部分であると思っています.

文献
1)Abraham AC, Agarwalla A, Yadavalli A, et al., Multiscale Predictors of Femoral Neck In Situ Strength in Aging Women: Contributions of BMD Cortical Porosity Reference Point Indentation and Nonenzymatic Glycation. J Bone Miner Res. 2015 (12):2207-14
2)Saito M, Marumo K, Kida Y, et al., Changes in the contents of enzymatic immature, mature, and non-enzymatic senescent cross-links of collagen after once-weekly treatment with human parathyroid hormone (1-34) for 18 months contribute to improvement of bone strength in ovariectomized monkeys. Osteoporos Int. 2011;22:2373-83.
3)Saito M, Kida Y, Nishizawa T, et al., Effects of 18-month treatment with bazedoxifene on enzymatic immature and mature cross-links and non-enzymatic advanced glycation end products, mineralization, and trabecular microarchitecture of vertebra in ovariectomized monkeys.Bone. 2015;81:573-80
4)Uemura Y, Sone T, Tanaka S, et al., Rnadamized head-to-head comparison of minodronic acid and raloxifene for fracture incidence in postmenopausal Japanese women: the Japanese Osteoporosis Intervention Trial (JOINT)-04, Curr Med Res Opin. in press
5)Saito M, Marumo K, Kida Y, et al., Changes in the contents of enzymatic immature, mature, and non-enzymatic senescent cross-links of collagen after once-weekly treatment with human parathyroid hormone (1-34) for 18 months contribute to improvement of bone strength in ovariectomized monkeys. Osteoporos Int. 2011;22:2373-83.
6)Saito M, Marumo K, Soshi S, Kida Y, Ushiku C, Shinohara A. Raloxifene ameliorates detrimental collagen cross-link formation and bone strength in rabbits with hyperhomocysteinemia. Osteoporos Int. 2010;21:655-66
7)Kida Y, Saito M, Shinohara A, et al., Non-invasive skin autofluorescence blood and urine assays of the advanced glycation end product (AGE) pentosidine as an indirect indicator of AGE content in human bone. BMC Musculoskelet Disord. 2019 Dec 2720(1):627
8)Shraki M, Kuroda T, Saito M, et al., Non-enzymatic collagen cross-links induced by glycoxidation (pentosidine) predicts vertebral fractures. J Bone Miner Metab. 2008;26:93-100
9)Shiraki M, Kashiwabara S, Saito M, et al., The association of urinary pentosidine levels with the prevalence of osteoporotic fractures in postmenopausal women Journal. J Bone Miner Metab. 2019. June 18. DOI.org/10.1007

斎藤先生
斎藤 充先生

福本ありがとうございます.臨床的には骨質を一般臨床に使っておられるかたというのは少ないと思いますが,今後どういうふうにしていく方向がいいとお考えでしょうか.

斎藤骨強度は骨密度と骨質.骨質も構造と材質に分けられますが,骨吸収,骨形成,骨リモデリングで制御されているのが構造学的な質と,単位体積当たりの石灰化度と,それの合算である骨密度ですから,まずはその三つのパラメータについてはX線ベースのもの,DXA,HSA,TBSで評価できると思います.材質評価に関しては,ヒト100例の骨と尿のペントシジンの相関が有意にあることを明らかにしました7).さらに長野コホートの縦断研究から尿ペントシジンの高値が将来の骨折の33%を説明する骨質マーカーになることを示してきました8).さらに簡便な尿ペントシジン測定キットを開発し9),安価で簡便な骨質評価を臨床現場で実現するためにワーキンググループでの活動を開始しました.こうした材質学的なパラメーターと,構造学的な骨質であるTBS,それから骨密度.これら三つをかけ合わせて,より精度の高い骨折予測ができないだろうかと思っています.

福本三つのパラメータをもとに,何らかの指標を考案するというようなことはされているのでしょうか.

斎藤そうですね. Fresh cadaverの骨でAGEs,骨密度,骨構造パラメーターを用いて,骨強度予測のアルゴリズムができないか検討しています.FRAXは,骨密度以外の骨強度因子を盛り込んだ絶対骨折リスクを算出するアルゴリズムなのですが,生活習慣病関連のパラメータは一切入っていないため,材質の劣化で骨折リスクの高まるこれらの疾患には応用できないのが欠点です.

福本斎藤先生は各種骨粗鬆症治療薬の骨質に対する影響を精力的に研究されていますが,現状で使用可能な治療薬の骨質に対する影響というのを簡単にまとめていただけませんでしょうか.

斎藤はい.まず骨吸収抑制剤は骨の代謝回転,破骨細胞を抑制しますので,構造学な骨質を改善します.一方でコラーゲンの新陳代謝は抑制されますので過剰な代謝抑制が長期間続きますと,AGEが増えてきて,マイクロクラックを誘導することが分かっています.また,デノスマブは皮質骨の多孔化などに対しては強力な抑制効果があるのですが,皮質骨の外側・内側の骨形成は抑制しないことが示されています.SERM製剤に関してはサルの投与実験,それからウサギの投与実験で示しましたが,エストロゲン作用により骨コラーゲンの分子間に骨強度を高める未熟および成熟架橋を誘導し,抗酸化作用によりAGEsの形成を抑制する骨質改善効果があることがわかっています.SERMなども骨質改善,材質・構造もある程度改善する薬剤.MORE studyの解析でもSERMは糖尿病などの症例においては骨折防止効果が強くでることも示されています.活性型ビタミンD3に関しては単なる栄養素としてのビタミンの補給というだけではなく,骨芽細胞のVDRに作用してコラーゲンの未熟および成熟架橋を誘導し,AGEを誘導しないことも示されています.特徴的なことは,サルの骨粗鬆症モデル活性型ビタミンD3製剤であるエルデカルシトールを投与するとminimodeling,すなわち骨形成が誘導されることも示されています.テリパラチドに関してはリモデリング動物で検証していますが,骨形成促進によってコラーゲン分子の合成が旺盛になりAGEの少ない骨ができる.また,同時に骨の微細構造と骨密度をを改善し骨強度を総合的に高めることが分かりました.ロモソズマブは,投与初期は骨形成が強く現れ骨の材質特性にも良い影響があると考えられますが,まだデータはありません.

福本ありがとうございました.骨質についてお伺いしました.この点について網塚先生,妻木先生何かございますか.

網塚私からよろしいでしょうか.先ほど,斎藤先生がsurgical training のcadaverを使ったときに「骨質」とおっしゃられました.surgical training ではホルマリン固定と違って,Thiel 法で柔らかい固定をしますよね.そのようなサンプルでも骨質の検出は大丈夫なのですか.

斎藤そうですね.ホルマリン固定によって骨のAGEの量は影響を受けないことが知られています.

網塚わかりました.ありがとうございます.

妻木私からもよろしいでしょうか.基本的な質問で恐縮ですが,治療をするときに骨の吸収と形成のターンオーバーの速さはどこを目指すのがいいのでしょうか.一方でmatrix中のcollagenのmaturationは,ターンオーバーが速いとmatureしにくいのではないかと考えたりしますが,そういったことを考えたときに,どこを目指すのがいいでしょうか.low ターンオーバーはよくないのではないかと思いますが,そのあたりはいかがでしょうか.

斎藤非常に重要な視点で,どんなにハイターンオーバーになっても,ビタミンDが充足していて,類骨の石灰化がある程度通常通り行われるのであれば,コラーゲンの善玉である未熟架橋の成熟化は健常に誘導されます. AGEは逆にコラーゲンが新陳代謝される過程で骨コラーゲンから消失します.しかし,ハイターンオーバーでも生活習慣病だとか,活性酸素の影響が強いと生まれたてのコラーゲンにあっという間にAGEができてしまいます.ヒトの骨を細かく粉砕し,新旧の骨単位毎にコラーゲン分析をすると同一個体の骨においても,新しい骨単位に比べて古い骨単位にはAGEsが増加していることが分かりました.AGEsは,破骨細胞にとって「古い骨」であることを認識させるシグナルであることを示す報告もでてきており,古い骨をリフレッシュする「ターゲッティング・リモデリング」のスタートに寄与している可能性があると考えています.

Page 1/3