日本骨代謝学会

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SIRT6-PAI-1軸は加齢に伴う骨代謝異常の有望な治療標的である

SIRT6-PAI-1 axis is a promising therapeutic target in aging-related bone metabolic disruption
著者:Alkebaier Aobulikasimu,Tao Liu,Jinying Piao,Shingo Sato,Hiroki Ochi,Atsushi Okawa,Kunikazu Tsuji,Yoshinori Asou
雑誌:Sientific Reports
  • 骨の加齢
  • SIRT6
  • PAI-1

麻生 義則
研究チームのresearch progressにて 前列左が筆者 右がLIU TAO君

論文サマリー

 男性の加齢に伴う骨量減少のメカニズムは十分に理解されたとは言えない。老化研究の進歩に伴い、老化を積極的に制御する因子の存在とその機能が明らかとなりつつあるが、サーチュインホモログSIRT6やPAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)は加齢制御因子である。PAI-1は細胞senescenceを誘導するが、近年、成体加齢におけるその重要性が注目されている。今回我々は加齢に伴う骨代謝メカニズム変化を解析するために、骨細胞特異的SIRT6欠損マウス(Dmp-1cre::Sirt6 f/f mouse; cKO)を作出し、骨代謝解析を行った。さらに、SIRT6欠損が骨細胞のPAI-1の発現を亢進させたことから、PAI-1欠損マウスとcKOマウスを交配し、cPKOマウス(Dmp-1cre::Sirt6 f/f::Pai-1-/- mice)を作出し、骨細胞に関連した骨格代謝におけるSIRT6-PAI-1軸の機能を検討した。

 オスcKOマウスでは破骨細胞数増加と骨芽細胞数低下に伴い、骨量低下が認められた。同時に骨細胞におけるSOST、FGF23、PAI-1、老化マーカーp16、p53とSASP (senescence-associated secretory phenotype)マーカーIl-6、Cxcl1の発現が増加し、FGF23発現亢進に伴い血清リン酸濃度が低下した。一方、cPKOマウスでは骨量が脊椎においてコントロールと同等となり、上記分子の発現はすべて正常化した。FGF23発現の正常化に伴い血清リン酸濃度も正常化した (図1)。

 SOST, FGF23発現制御における骨細胞senescenceの機能を解析するために、骨細胞様細胞株MLO-Y4細胞にsenescence誘導したところ、Sost, Fgf23の発現が亢進した。MLO-Y4細胞に対してChIP assayを行ったところ、SIRT6発現抑制やsenescence誘導は、Fgf23エンハンサー領域に対するHIF-1結合を促進することが明らかとなった。DMOG(Dimethyloxalylglycine)によるHIF-1活性促進は、Fgf23転写を促進したが、反対にSIRT6欠損によるFgf23転写亢進は、CAY10585 によるHIF-1活性抑制によってブロックされた。PAI-1欠損マウスの骨組織を解析したところ、野生型で認められる加齢性骨量低下は、PAI-1欠損マウスでは軽減され、同時に加齢に伴うSost, Fgf23の発現上昇は、PAI-1欠損マウスで抑制されていた。最後に、股関節手術患者から採取した皮質骨に対してq-PCR解析を行ったところ、年齢とFGF23、SOST、PAI-1発現が有意に相関した(図2)。以上、私たちは、骨細胞におけるSIRT6活性低下とその下流のPAI-1増加が、加齢に伴う骨代謝異常の原因の一つであることを明らかにした。本研究の結果に基づき、SIRT6の下流に、SOSTとFGF23の制御に関与するsenescence依存経路と非依存経路の2つのシグナル伝達経路を提案した(図2)。

麻生 義則
図1
骨細胞特異的SIRT6欠損マウス(cKO)の腰椎骨量,
血中リン濃度は野生型より低下した。PAI-1欠損(cPKO)によりこれらの表現型は救済された。

麻生 義則
図2
a ヒト皮質骨のq-PCR解析結果。FGF23, SOST, PAI-1の発現は加齢に伴い増加した。
b 骨細胞におけるSIRT6発現低下は、senescenceを介する径路、および介さない径路を通じて骨量、リン代謝を制御する。

著者コメント

 この研究はウイグル自治区からの留学生のアクバル君が立ち上げ、大連からの留学生のLIU君が引きついで完成させました。3種類の遺伝子改変マウスを用いた老化研究は、時間がかかる力仕事ですが、彼らはしっかりとやり遂げてくれました。私たちは運動器の加齢制御機構に興味を持ち、加齢制御因子SIRT6やPAI-1の機能解析を進めてきましたが、この論文は、私たちの骨加齢研究の長い道程の一里塚といえるものと考えています。サーチュインを活性化するニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)は、現在臨床研究が進められています。経口投与可能な低分子PAI-1阻害剤が開発され、こちらも安全性試験を終了して臨床試験が進行中です。近年Senolysisによる抗加齢研究が注目を浴びていますが、PAI-1活性阻害によるsenescence予防も、様々な臓器の抗加齢医学の一つの選択肢と考えられます。(東京医科歯科大学 整形外科・麻生 義則)