日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 山田 将博・江草 宏

チタンナノ表面は骨結合を強化するために骨小腔・骨小管ネットワークの形成を導く

Titanium nanotopography induces osteocyte lacunar-canalicular networks to strengthen osseointegration.
著者:Xindie He, Masahiro Yamada, Jun Watanabe, Watcharaphol Tiskratok, Minoru Ishibashi, Hideki Kitaura, Itaru Mizoguchi, Hiroshi Egusa
雑誌:Acta Biomater. 2022 Aug 20; S1742-7061(22)00499-8. doi: 10.1016/j.actbio.2022.08.023.
  • 骨質
  • 骨細胞
  • ナノテクノロジー

山田 将博・江草 宏
前列中央は筆頭著者のHe Xindieさん、中列は連絡著者の江草 宏教授(左)と山田将博准教授(右)、後列は共著者の渡辺 隼助教とTiskratok Watcharapholさん

論文サマリー

 関節や歯の再建に用いられるチタン製インプラント治療では、インプラントを支える骨の質を高めることができれば、長期的な成功率の向上が期待できます。しかしこれまで、自発的に周囲の細胞に働きかけ、骨質を高めるインプラント材料はありませんでした。

 骨細胞は骨組織を構成する大多数の細胞集団であり、骨代謝を調整することで骨質を制御する重要な細胞と考えられています。骨細胞は神経細胞様の長い樹状突起を形成することにより、骨組織内で骨細胞同士連結した三次元ネットワークである骨小腔・骨小管ネットワークを構築します。その三次元ネットワークの発達度は骨代謝の活性度に密接に関連していることが知られています。そのため、骨小腔・骨小管ネットワーク形成の促進は骨質を高める手段の一つと考えられてきました。

 著者らはこれまで、微小硬度や弾性率、ナノ表面形態といった歯根セメント質の物理的性質をチタン上に再現するナノ表面改質の開発に取り組んできました。本論文では、このセメント質模倣チタンナノ表面が、無数のナノ突起で物理的な接触刺激を加えることにより、チタン表面上での骨細胞株MLO-Y4細胞の接着斑の組み立てと神経細胞様の長い樹状突起の形成を促すことを示しました。さらに、骨細胞株の三次元培養モデルにおいて、セメント質模倣チタンナノ表面によって活性化された骨細胞株は、周囲の細胞に働きかけ、コネキシン分子の強発現を伴う三次元的な細胞間連結を発達させることが示されました。このセメント質模倣チタンナノ表面を起点とする、ドミノ倒しのような骨細胞活性化の波及現象は生体組織中においても確認されました。野生型ラットの上顎骨にインプラントを埋入した動物実験モデルに置いて、セメント質模倣ナノ表面チタンインプラントの周囲骨組織に存在する骨細胞は、骨―インプラント界面で著しい数の細胞突起をナノ表面に付着させるとともに、インプラント表面から離れた骨組織中でも、樹状突起の形成と密な細胞間連結を発達させていました。さらに、生体力学的解析により、セメント質模倣ナノ表面チタンインプラントは、従来型インプラントよりも、骨結合強度を増強させました。これらの結果により、セメント質模倣チタンナノ表面は物理的刺激により骨細胞を活性化させることで、自発的に骨小腔・骨小管ネットワークの発達を促進し、骨結合を強化することが示されました。

山田 将博・江草 宏

著者コメント

 本研究を通じて、骨小腔・骨小管ネットワークの発達過程における骨細胞のユニークな細胞動態を観察することができ、骨代謝研究の魅力を再認識することができました。また生体材料学的成果として、ナノレベルで設計することで、自律的に再生組織の質を高めるバイオマテリアル開発への道筋を示せたと考えています。今後も、生物資源を必要とせずに無機的機序を介して生体機能の制御を図るバイオマテリアルの開発に取り組んでいきます。
 本研究を遂行するにあたり、骨細胞株培養に関してご協力いただきました共著者の東北大学歯学研究科 顎口腔矯正学分野の溝口 到教授、北浦英樹准教授に御礼申し上げます。(東北大学大学院歯学研究科 分子・再生歯科補綴学分野・山田 将博・江草 宏)