日本骨代謝学会

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Foxf2はWnt2b/βカテニン伝達経路を介して骨形成を抑制する

Foxf2 represses bone formation via Wnt2b/β-catenin signaling
著者:Tomoyuki Tanaka, Akira Takahashi, Yutaka Kobayashi, Masanori Saito, Sun Xiaolong, Chen Jingquan, Yoshiaki Ito, Tsuyoshi Kato, Hiroki Ochi, Shingo Sato, Toshitaka Yoshii, Atsushi Okawa, Peter Carlsson, Hiroyuki Inose
雑誌:Exp Mol Med. 2022 Jun;54(6):753-764. doi: 10.1038/s12276-022-00779-z. Epub 2022 Jun 6.
  • 間葉系幹細胞
  • 骨芽細胞
  • Foxf2

田中 寛来

論文サマリー

 近年、間葉系幹細胞(MSC)から骨芽細胞への分化の様々な制御機構が明らかになりつつある。フォークヘッド転写因子であるFoxf2は、間葉系組織に発現しており、胚発生期に四肢に多く発現していることから、骨格形成におけるFoxf2の重要性が示唆されていた。しかし、骨格形成や骨リモデリングにおけるFoxf2の機能・役割については、これまでに解明されていない。そこで、本研究の目的はMSCから骨芽細胞への分化におけるFoxf2の役割を明らかにすることである。

 まず、MSCから骨芽細胞への分化の過程で、発現量が変化する遺伝子をRNA-seqにより解析し、Foxf2の発現が増加することを見出した。マウス骨髄由来間質系幹細胞であるST2細胞において、Foxf2のノックダウンによって骨芽細胞分化は促進され、過剰発現によって抑制された。次に、我々はPrx1 promoterを用いて骨芽前駆細胞特異的Foxf2ノックアウトマウス(cKO)を作製し、解析を行った。cKOマウスでは、コントロールマウスと比較して、大腿骨での海綿骨の骨量増加と骨芽細胞数の上昇、血清骨形成マーカー(P1NP)の上昇を認めた。一方で、破骨細胞数や血清骨吸収マーカー(CTX-Ⅰ)では、コントロールマウスと比較して有意差を認めなかった。以上のことから、Foxf2は骨吸収に影響を与えず、骨形成を制御していることが示唆された。

 次に、Foxf2が骨芽細胞分化を制御するメカニズムを明らかにするため、コントロールマウスおよびcKOマウスの頭蓋骨における遺伝子発現をRNA-seqにより網羅的に解析した。パスウェイ解析の結果、Foxf2はWnt経路を調節していることが示唆された。さらに、標的遺伝子候補であるWnt2bとFoxf2が結合することが、クロマチン免疫沈降アッセイにより明らかとなった。

 最後に、骨リモデリングにおけるFoxf2の役割を検討するため、マウス骨髄除去モデルを作成し、in vivoでFoxf2をノックダウンし骨再生を評価した。すると、コントロール群と比較し、Foxf2ノックダウンにより再生海綿骨量が増加した。さらに、ヒトMSCにおいても、FOXF2の発現をノックダウンすると、骨芽細胞分化は促進された。また、ヒト脊椎骨組織においてFOXF2発現量と大腿骨骨密度に相関を認めた。

 MSCの骨芽細胞への分化は、骨形成と骨量獲得に不可欠である。今回我々は、MSCの骨芽細胞への分化をFoxf2が負に制御していることを明らかにした。臨床的な観点からは、FOXF2の発現を全身的あるいは局所的に抑制することは、骨粗鬆症や骨折などの骨関連疾患の治療戦略として有望であると思われる。

田中 寛来
図1 大腿骨μCTの3次元画像(a)コントロールマウス(b)cKOマウス

田中 寛来
図2 Foxf2が骨芽細胞分化を制御するメカニズム

著者コメント

 東京医科歯科大学整形外科へ入局後、多くの病院で様々な手術の経験を積ませていただきましたが、骨粗鬆症に対する関心はあまりありませんでした。大学院入学後、基礎研究を通して骨代謝の奥深さに触れることができました。基礎研究のいろはをご指導いただきました指導医の猪瀬弘之先生や大川淳教授はじめ、本研究にあたりご指導いただきました先生方、ご協力いただいたスタッフの方々に、この場を借りて深く感謝申し上げます。
 また、創薬までの道のりは遠くとも、本研究が骨粗鬆症や骨折、偽関節などの治療につながることを期待しています。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科整形外科学分野・田中 寛来)