日本骨代謝学会

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Gli1陽性歯根膜細胞は歯槽骨の恒常性維持と組織再生に寄与する

Gli1+-PDL Cells Contribute to Alveolar Bone Homeostasis and Regeneration.
著者:N Shalehin, Y Seki, H Takebe, S Fujii, T Mizoguchi, H Nakamura, N Yoshiba, K Yoshiba, M Iijima, T Shimo, K Irie, A Hosoya
雑誌:J Dent Res. 2022 Jul 4:220345221106921.
  • 歯根膜幹細胞
  • Gli1
  • 歯槽骨再生

細矢 明宏・関 有理

論文サマリー

 歯根膜には骨芽細胞、セメント芽細胞、線維芽細胞へ分化する間葉系幹細胞が存在することが知られている。しかし、これらの幹細胞を形態学的に同定することは困難であり、単離、解析することは出来なかった。Gli1は、形態形成に必須なヘッジホッグシグナリングの下流にある転写因子である。近年、細胞系譜解析によりマウス切歯歯胚に存在するGli1陽性細胞は、歯根膜および歯髄を構成する多種類の細胞へ分化することが示された(Zhao et al. Cell Stem Cell 14:160-73, 2014)。そこで本研究では、完成歯の歯根膜組織におけるGli1陽性細胞の硬組織形成能をGli1-CreERT2/ROSA26-loxP-stop-loxP-tdTomato (iGli1/Tomato)マウスを用いて検討した。

 歯根形成途中の4週齢iGli1/Tomatoマウスの歯根膜では、血管周囲に少数のGli1陽性細胞が認められた。これらの細胞は増殖し、28日後に歯槽骨表面に分布した。一方、歯根形成が終了した8週齢iGli1/TomatoマウスのGli1陽性歯根膜細胞は増殖せず、ほとんどの細胞が静止状態であった(図-1)。一般的に、生体内において幹細胞は増殖能が低いと考えられている。そこで、8週齢マウスからGli1陽性歯根膜細胞を採取したところ、in vitroにおいて高いCFU-F活性を示し、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞へ分化した(図-2)。次に、タモキシフェン投与後に8週齢iGli1/Tomatoマウス臼歯を抜歯し、野生型マウス皮下へ移植する再生実験を行った。7日後、抜去歯に残存したGli1陽性細胞は増殖したが、歯根周囲に歯槽骨はみられなかった。28日後になると、既存のセメント質と歯根膜様組織を介して新生歯槽骨の形成が観察された。Gli1陽性細胞に由来することを示すTomato蛍光は、新生歯槽骨表面の骨芽細胞、歯根膜様組織中の線維芽細胞、およびセメント芽細胞で認められた。また、Tomato蛍光を発する細胞の一部は、新生歯槽骨内でも認められたことから、Gli1陽性細胞は骨細胞へも分化した(図-3)。

 以上より、歯根膜に存在するGli1陽性細胞は、自己複製能と多分化能を有する間葉系幹細胞であることが明らかになった。また、この細胞は歯槽骨を含む歯周組織の再生に寄与することが示された。

細矢 明宏・関 有理

著者コメント

 この論文では、Shalehin Nazmus先生と関 有里先生が同等の貢献度として1st authorになっています。Shalehin先生はバングラデシュから来た留学生です。現在は母国で歯科医院を開設しておりますが、将来は研究の道に進むことを考えているそうです。関先生は歯科矯正学分野に所属する大学院4年生です。臨床で多忙であるにもかかわらず深夜まで実験を行う姿には、教室員一同が感心させられました。特に、リバイス時の所見追加をパワフルに進めたことは、本論文の受理に大きく貢献されたと感謝しています。卒後は私たちの教室の助教になりますので、これまで以上にリサーチマインドをもって研究に励んでもらうことを期待しています。(北海道医療大学歯学部 組織学分野・細矢 明宏・関 有理)