日本骨代謝学会

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β2-アドレナリン受容体遮断は歯の移動を抑制する

Selective β2-adrenergic Antagonist Butoxamine Reduces Orthodontic Tooth Movement.
著者:T. Sato, K. Miyazawa, Y. Suzuki, Y. Mizutani, S. Uchibori, R. Asaoka, M. Arai, A. Togari and S. Goto
雑誌:Journal of Dental Research 2014 May 27; 93(8):807-812
  • 交感神経
  • 歯の移動
  • 骨リモデリング

佐藤 琢麻

論文サマリー

矯正歯科治療における力学的負荷は、歯槽骨の骨吸収と骨形成による骨リモデリングを引き起こし、その結果、歯は移動する。身体の骨リモデリングに影響を及ぼす因子の一つに神経系があり、骨リモデリングと神経系は密接に関係していることがこれまでに報告されている。身体の骨リモデリングは骨膜に分布する神経が調整していると考えられるが、歯の移動における歯槽骨の骨リモデリングには、歯根膜に存在する神経線維が影響を及ぼしていると考えられる。
我々は以前、交感神経系の活動亢進を伴う高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rats)(SHR)を用いて、骨量の減少に対するβ-遮断薬の有効性を検討した結果、選択的β2-アドレナリン受容体遮断薬ブトキサミン(BUT)は骨減少を改善することを示した。しかしながら、歯の移動時の骨代謝に及ぼすBUTの効果は不明である。
本研究では、SHRの歯の移動に及ぼすBUTの影響を検討した。
SHRとウィスター京都ラット(Wistar-Kyoto rats)(WKY) に、BUT(1 mg/kg)を経口投与し、上顎第一臼歯と前歯の間にクローズドコイルスプリングを装着した。その後、上顎第一臼歯の移動距離の計測、組織学的解析および骨構造解析を行った。
SHRコントロール群はWKYコントロール群と比較して第一臼歯の移動距離が増加し、SHR BUT投与群では減少が認められ、WKYコントロール群とSHR BUT投与群の間に有意差は認められなかった。歯の移動によって増加した歯根膜のチロシン水酸化酵素(TH)免疫反応性の交感神経はBUT投与により減少した。また、歯の移動によって増加した破骨細胞面(OcS/BS)はBUT投与により減少した。加えて、歯槽骨の骨量(BV/TV)はSHRコントロール群で減少が認められ、WKY BUT投与群とSHR BUT投与群で増加が認められた。
これらの結果から、BUTはβ2-アドレナリン受容体遮断効果により、骨量の減少と歯の移動距離を抑制することが示唆された。歯科矯正治療において、BUTは歯の移動をコントロールし、歯槽骨骨量減少抑制薬となり得る可能性が示された。

著者コメント

私は、愛知学院大学歯科矯正学講座に入局後、歯学研究科博士課程に進学し、後藤滋巳教授の計らいにより、愛知学院大学薬理学講座にて「骨と神経」の研究に携わらせて頂きました。博士課程修了後も歯科矯正学講座にて研究を行う機会を与えて頂き、本研究では実験系の確立に苦労しましたが、共著者の先生方のご協力により、ようやく論文を完成させることができました。後藤滋巳教授、戸苅彰史教授をはじめとする多くの諸先生方に心より感謝申し上げます。(愛知学院大学歯学部歯科矯正学講座・佐藤 琢麻)