日本骨代謝学会

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SH3BP2機能獲得型変異はマウス関節炎における炎症と骨量減少を増悪させる

SH3BP2 gain-of-function mutation exacerbates inflammation and bone loss in a murine collagen-induced arthritis model.
著者:Mukai T, Gallant R, Ishida S, Yoshitaka T, Kittaka M, Nishida K, Fox DA, Morita Y, Ueki Y.
雑誌:PLoS One. 2014 Aug 21;9(8):e105518. doi: 10.1371/journal.pone.0105518. eCollection 2014
  • SH3BP2
  • 破骨細胞
  • 関節炎

向井 知之

論文サマリー

 アダプター蛋白SH3BP2は免疫・骨代謝に関与する。我々はSH3BP2が顎骨破壊を特徴とするヒト遺伝病cherubismの原因遺伝子であることを報告した(Ueki Y, et al. Nat Genet 2001)。P416R SH3BP2 cherubism変異ノックイン(KI)マウスモデルの解析から、P416R SH3BP2 mutationはgain of functionとして作用し、マクロファージからのTNF産生にかかわること、RANKL誘導性の破骨細胞分化を亢進すること(Ueki Y, et al. Cell 2007)、またTNF誘導性の破骨細胞分化を亢進することを明らかとした(Mukai et al. J Bone Miner Res. In press)。しかし、SH3BP2のcherubism以外の疾患における意義については分かっていなかった。本研究ではコラーゲン誘導性関節炎(CIA)モデルを用いて、SH3BP2の関節炎発症・骨破壊における役割について検討した。Wild-typeマウスとP416R SH3BP2 cherubism mutation knock-in heterozygous(KI/+)マウス(いずれもDBA1バックグラウンド)にそれぞれCIAを誘導し、関節炎の発症を観察したところ、関節炎の発症率には差が見られなかったが、KI/+マウスではwild-typeマウスに比して関節炎が重症化することが分かった。マイクロCT解析では、KI/+マウスにおいて関節炎局所(距骨)の骨びらんが増強しており、組織学的解析でもKI/+マウスにおける足関節での炎症細胞浸潤・骨破壊・破骨細胞形成の亢進が確認された。炎症関節から抽出したRNAを用いた遺伝子発現解析では、KI/+マウス関節においてTNFと破骨細胞関連遺伝子(Acp5, Ctsk, Oscar)の高発現を認めた。また、血中の抗II型コラーゲン抗体価はwild-typeとKI/+マウスで差を認めなかった。続いて、どういった細胞レベルでSH3BP2が関節炎・骨破壊を調節しているかを探るために鼠径リンパ節細胞、また骨髄マクロファージを用いた培養実験を行った。結果、リンパ節細胞のII型コラーゲンに対する反応性には有意な差を認めなかったが、M-CSF刺激下でKI/+マウスのマクロファージはTNF mRNAを高発現することがわかった。また、KI/+マウスのマクロファージではNFATc1核移行の亢進を介してRANKL誘導性破骨細胞分化が増強されることが分かった。以上の結果より、P416R SH3BP2 gain-of-function mutationはマクロファージレベルでの炎症と破骨細胞分化を亢進させることで関節炎による骨破壊を増強することが明らかとなった。本研究で得られた知見は関節リウマチをはじめとした炎症性骨破壊の病態におけるSH3BP2の重要性を示唆するものと考える。今後のSH3BP2をターゲットとした新規治療法開発や診断・予後予測マーカーとしての更なる研究が期待される。

向井 知之

著者コメント

 本研究は2009年9月から2014年7月まで所属していましたUniversity of Missouri-Kansas City(USA)の植木靖好ラボで行いました。植木先生の指導の下、破骨細胞分化やCIA・human TNF transgenic マウスを用いた関節炎研究に取り組みました。苦労した点としては、関節炎モデルマウスの実験は植木ラボでは初めての試みでしたので、CIAによる関節炎誘導、その後の解析など試行錯誤の連続でした。トラブルが起こるたびに貴重なアドバイスをくださりました植木先生、西田圭一郎先生(岡山大学)、守田吉孝先生(川崎医科大学)、また研究をサポートしてくれたラボメンバーには心から感謝しています。今後は植木ラボで学んだことを、現在の所属部署である川崎医科大学リウマチ・膠原病学で更に発展させていきたいと考えています。(川崎医科大学リウマチ・膠原病学・向井 知之)