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歯根膜幹細胞転写羊膜を用いた歯周組織再生

Periodontal regeneration using periodontal ligament stem cell-transferred amnion.
著者:Iwasaki K, Komaki M, Yokoyama N, Tanaka Y, Taki A, Honda I, Kimura Y, Takeda M, Akazawa K, Oda S, Izumi Y, Morita I.
雑誌:Tissue Eng Part A. 2013 Sep 15
  • 再生
  • 幹細胞
  • 歯周病

岩﨑 剣吾

論文サマリー

 歯周病は歯の支持組織の破壊を特徴とする炎症性疾患である。進行した歯周病は高度な歯槽骨の吸収によって抜歯となる。現在、日本人における最大の抜歯原因である。歯周病によって失われた歯周組織を再生する試みは広く行われてきたが、いまだ十分な再生を達成する術式は無く新たな再生療法の開発が大きな研究課題となっている。歯根膜は歯と歯槽骨(歯の支持骨)の間に介在する軟組織であるが、歯周組織の恒常性維持や創傷治癒における組織再生において重要な役割を果たしていることが古くより知られ、この組織中に再生能力を有する幹細胞/前駆細胞が存在するとされてきた。歯周病は歯の支持組織の破壊を特徴とする炎症性疾患である。進行した歯周病は高度な歯槽骨の吸収によって抜歯となる。現在、日本人における最大の抜歯原因である。歯周病によって失われた歯周組織を再生する試みは広く行われてきたが、いまだ十分な再生を達成する術式は無く新たな再生療法の開発が大きな研究課題となっている。歯根膜は歯と歯槽骨(歯の支持骨)の間に介在する軟組織であるが、歯周組織の恒常性維持や創傷治癒における組織再生において重要な役割を果たしていることが古くより知られ、この組織中に再生能力を有する幹細胞/前駆細胞が存在するとされてきた。

 近年、組織工学的な技術の進歩により、幹細胞移植による再生治療が注目されるようになった。我々は印刷技術に利用されている光リソグラフィー技術を細胞培養と組み合わせ、培養細胞を、あたかも紙に文字を印刷するかの如く転写する技術を開発した。この細胞転写技術を用いることにより、培養した細胞を目的の担体上へ転写することが可能となる。本研究では歯根膜から単離培養した間葉系幹細胞(歯根膜幹細胞 Periodontal ligament stem cells ; PDLSC)を、この細胞転写技術を用いて生体膜の一つである羊膜へ転写しPDLSC転写羊膜を作製、その物性、および動物モデルへの移植による歯周組織再生の可能性を検討した。

 PDLSCは骨髄由来間葉系幹細胞と同様の細胞表面抗原発現パターン(CD90+, CD44+, CD73+, CD105+, STRO-1+, CD146+, CD34-, CD45-)およびin vitro培養系における骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化能を示した。細胞転写技術を用いてPDLSCは脱細胞処理を施した羊膜上へ単層に転写された。このPDLSC転写羊膜は、膜の折り畳みや皺の形成、さらにはピンセットによる膜の引きずり、引っ張りなどの変形にもかかわらず安定して細胞を保持した。PDLSC転写羊膜を免疫不全ラットの上顎第一臼歯近心根と口蓋根の間に外科的に作製した歯周組織欠損へ移植し、4週後にマイクロCTおよび組織学的に観察を行った。マイクロCTにおいてPDLSC羊膜移植は羊膜のみを移植した群と比較して有意な歯槽骨の再生を示した。組織学的観察においてもPDLSC羊膜を移植した群では新たに再生した歯周組織(セメント質、歯根膜、歯槽骨)が観察された。一方、羊膜のみを移植した群では欠損内はコラーゲン線維と血管を中心とした結合組織によって埋められていた。

 細胞転写技術を用いて作成されたPDLSC転写羊膜はラットの歯周組織欠損モデルに移植することにより歯周組織再生を誘導することが明らかとなり、この結果は歯根膜幹細胞転写羊膜移植が新たな歯周組織再生治療法となる可能性が示唆された。

岩﨑 剣吾

著者コメント

 私は2010年より森田育男教授、小牧基浩准教授のもと歯周病の新規再生治療開発を目標に研究させていただいています。動物実験について全くの初心者であった私が動物モデルの作成から移植実験まで行う事が出来たのは、ひとえに森田教授、小牧先生の辛抱強いご指導があったからでした。またこの細胞転写技術の「肝」でもある、細胞転写基板を作製していただきました大日本印刷株式会社の横山尚毅さん、田中裕一さんの縁の下の支え無くしではこの研究は有り得ませんでした。ここに感謝申し上げます。細胞を“ハンコ”のように担体表面へ転写する細胞転写技術を最初に見た時には、産業技術の医療への応用を目の当たりにして次世代医療の一端を垣間見た気がしました。この研究をきっかけに歯周病の再生治療開発に向けて日々精進したいと思っております。(東京医科歯科大学大学院 ナノメディスン(DNP)講座・岩﨑 剣吾)