日本骨代謝学会

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ナノゲル輸送を利用したS252W変異を伴う可溶型線維芽細胞増殖因子受容体による頭蓋骨縫合早期癒合症に対する治療効果に関する研究

Therapeutic Effect of Nanogel-Based Delivery of Soluble FGFR2 with S252W Mutation on Craniosynostosis.
著者:Yokota M, Kobayashi Y, Morita J, Suzuki H, Hashimoto Y, Sasaki Y, Akiyoshi K, Moriyama K.
雑誌:PLoS One. 2014 Jul 8;9(7):e101693.
  • FGFR2
  • Apert症候群
  • 骨芽細胞

横田 正子

論文サマリー

 Apert 症候群(AS)は、頭蓋骨縫合早期癒合症を主徴とする先天性疾患で、原因遺伝子として線維芽細胞増殖因子受容体 2(fibroblast growth factor receptor 2; FGFR2)の点突然変異によるアミノ酸置換(S252W、P253W)が同定されている。我々は過去の報告において、FGFR2S252Wの細胞外領域から構成される可溶型FGFR2(sFGFR2IIIcS252W)がAS疾患モデルマウス(ASマウス)の表現型を部分的に救済することを明らかにした。そこで本研究では AS発症機序の解明および sFGFR2IIIcS252Wの頭蓋骨縫合早期癒合に対する治療効果を検証することを目的とした。まず、ASマウス冠状縫合部における骨芽細胞のマーカー遺伝子の発現解析を行った。sFGFR2IIIcS252Wを精製後、リガンドおよび膜受容体との相互作用について検討を行った。さらにin vitroにおけるsFGFR2IIIcS252Wの機能解析として、FGFR2S252W恒常発現 MC3T3-E1 細胞(MC3T3-Ap)の増殖、石灰化および細胞内情報伝達機構に対する作用、頭蓋冠組織培養系を用いた冠状縫合部の早期癒合に対する作用について検討した。ASマウス冠状縫合部では、Runx2、Osteopontin、Fgfr2IIIb、Fgf10、およびEpithelial splicing regulatory protein 1(Esrp1)の遺伝子高発現を認め、ERK、MEK、SAPK/JNK のリン酸化の亢進が認められた。また、精製したsFGFR2IIIcS252WはFGF2との結合能を有することが示され、FGFR2IIIc、FGFR2IIIcS252WおよびFGFR2IIIbS252Wと二量体を形成することが示された。さらに in vitroにおいて、sFGFR2IIIcS252WはMC3T3-Ap細胞の増殖、石灰化および細胞内情報伝達機構に対し抑制効果を示した。頭蓋冠組織培養にて、精製 sFGFR2IIIcS252W-ナノゲル複合体は ASマウス冠状縫合の開存を維持することが明らかとなった。

横田 正子

 以上より、頭蓋骨縫合早期癒合症発症に受容体のスプライシング異常および異所性のリガンド発現が関与する可能性が示唆され、精製sFGFR2S252Wの頭蓋骨縫合早期癒合症に対する予防効果が示された。

著者コメント

 Apert症候群をはじめとする頭蓋骨縫合早期癒合症は、矯正歯科臨床とも非常に関わりの深い疾患であり、頭蓋冠形成術や外科的矯正治療など、複数回におよぶ侵襲性の高い治療を余儀なくされているのが現状です。そこで我々の研究室では、頭蓋骨縫合早期癒合症に対する非侵襲的な治療法の開発を目指して、疾患変異を有する可溶型線維芽細胞増殖因子受容体2の治療効果について研究を行ってきました。矯正歯科臨床を学ぶ大学院生として、基礎研究と臨床応用をつなぐ研究を常に念頭に置いていました。森山啓司教授、小林起穂先生をはじめとする共著者の先生方、また本研究の遂行にご協力していただいた全ての方々に深く感謝申し上げます。(東京医科歯科大学・横田 正子)