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Activin Aがヒト歯根膜細胞の表現型特性に及ぼす影響について

Effects of Activin A on the phenotypic properties of human periodontal ligament cells.
著者:Hideki Sugii, HidefumiMaeda, Atsushi Tomokiyo, Naohide Yamamoto, NaohisaWada, KatsuakiKoori, Daigaku Hasegawa, Sayuri Hamano, Asuka Yuda, Satoshi Monnouchi, Akifumi Akamine
雑誌:Bone. 2014 Sep;66:62-71. doi: 10.1016
  • Activin A
  • ヒト歯根膜細胞
  • 骨芽細胞様分化

杉井 秀樹

論文サマリー

 口腔内において、歯は歯根膜組織という線維性結合組織によって歯槽骨に固定されている。歯根膜組織は、このように、歯の支持・固定を行うだけではなく、知覚神経支配を受け、咀嚼システムの感覚入力としての機能を有する重要な組織である。骨縁下カリエス、外傷、歯周病等により炎症性病変が生じ、歯根膜組織および骨組織を含む歯周組織が重度に傷害された場合、歯の喪失を招くことになる。このような歯の喪失を防ぐ上で、歯根膜組織を治癒、再生することは極めて重要な課題である。歯根膜細胞には、歯根膜幹細胞が含まれており、この歯根膜幹細胞は線維芽細胞、骨芽細胞、セメント芽細胞への分化能を有し、歯根膜組織再生に寄与していると考えられている。

 組織再生において、細胞、成長因子および足場材は重要な因子とされるが、この中で私たちは、成長因子の1つであるActivin A(ACTA)に着目した。ACTAは、TGF-β superfamilyに属するinhibinβaの2量体タンパクであり、その機能として細胞の増殖、遊走、分化を促進することにより、様々な組織の治癒に関与していることが報告されている。しかしながら、ヒト歯根膜細胞(HPDLCs)に及ぼすACTAの影響については、現在明らかにされていない。そこで今回、私たちはHPDLCsにおけるACTAの機能について解析した。

 まず、HPDLCsにおいてACTAおよびそのレセプターの発現を確認した。次に、ラット歯根膜傷害モデルを用いて上顎臼歯の組織切片の免疫染色を行った結果、傷害側では創部近傍の歯根膜組織に抗ACTA抗体および抗IL-1β抗体の強い陽性反応を認めた。一方非傷害側では、抗ACTA抗体に弱陽性反応が見られたが、抗IL-1β抗体には陽性反応を認めなかった。また、炎症性サイトカイン(IL-1βまたはTNF-α)にて刺激したHPDLCsはACTAの遺伝子発現を有意に促進した。これらの結果より、ACTAは歯根膜組織に発現しているが、創傷部位ではさらにその発現が上昇し、ACTAの発現は炎症性サイトカインによって促進することが明らかとなった。

 次に、細胞の走化性、遊走、増殖、分化は組織治癒において重要な過程とされるが、私たちは、ACTAがHPDLCsのそれらに及ぼす影響について解析した。ACTA存在下で培養したHPDLCsの走化性、遊走、および増殖は有意に亢進した。さらに、Ca含有培地にて培養したHPDLCsは骨芽細胞様分化を示したが、培養初期(7日間)でのACTAの投与により骨関連遺伝子(BSP,OCN,RUNX2)の発現および石灰化が抑制された。一方、ACTA単独で刺激したHPDLCsは、歯根膜関連遺伝子(αSMA,COL1,COL3,FBN1,Periostin,PLAP1,Scleraxis,TGFβ1)の発現ならびにコラーゲン産生を有意に促進した。これらの結果より、ACTAはHPDLCsの骨芽細胞様分化を抑制し、線維芽細胞様分化を促進することが明らかとなり、歯根膜組織の創傷治癒に関与することが推察された。

著者コメント

 歯周組織の治癒・再生を目標として現在研究を行っていますが、今回の結果より、ACTAという成長因子が歯根膜組織の治癒に関与している可能性が示唆されました。まだ歯周組織の再生までは遠い道のりですが、そこを目標に今後も研究に精進していきたいと思います。ところで、私が現在の研究に携わったのは九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座歯科保存学研究分野に入学した2年半前のことでした。最初は右も左もわかっていなかった自分がこのような報告ができましたのも、赤峰昭文先生、前田英史先生、友清淳先生のご指導と歯科保存学研究分野の皆様のご協力のおかげです。この場をかりまして、深く感謝申し上げたいと思います。(九州大学病院 歯内治療科・杉井 秀樹)