日本骨代謝学会

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軟骨におけるGalnt3の過剰発現はムチン型-O-糖鎖の増加及びグリコサミノグリカンの低下により成長障害をひき起こす

Overexpression of Galnt3 in Chondrocytes Resulted in Dwarfism Due to the Increase of Mucin-type O-Glycans and Reduction of Glycosaminoglycans.
著者:Yoshida CA, Kawane T, Moriishi T, Purushothaman A, Miyazaki T, Komori H, Mori M, Qin X, Hashimoto A, Sugahara K, Yamana K, Takada K, Komori T.
雑誌:J Biol Chem. 289, 26584-96. (2014).
  • Galnt3
  • ムチン型-O-グリコシレーション
  • 軟骨細胞

吉田 カロリナ アンドレア

論文サマリー

 Runx2転写因子は、骨芽細胞分化および軟骨細胞後期分化に必須である。今までRunx2 によって制御される遺伝子が複数報告されているが、全貌は未だ明らかではない。我々は、Runx2ノックアウトマウスの軟骨細胞を用いたマイクロアレイ解析により、Runx2によって誘導される遺伝子の一つとしてGalnt3を同定した。Galnt3は、ムチン型-O-グリコシレーションを開始する糖転移酵素であり、UDP-GalNAcからタンパク質のセリンとスレオニンのアミノ酸残基にGalNAcを付加する。
 野生型胎児において、Galnt3は静止、増殖、および前肥大軟骨細胞で発現を認めた事から、我々はGalnt3が軟骨形成にどのような機能を持つかを調べるため、Galnt3ノックアウト(-/-)マウス及び軟骨細胞特異的にGalnt3を過剰発現させたトランスジェニック(tg)マウスを作製し解析を行った。
 野生型に比べて胎生16.5日のGalnt3–/–マウスは軽度な矮小発育症、上腕骨の石灰化部分の短縮を認め、軟骨内骨化過程の遅延を示した。その後通常に生まれ、3週齢の雄は小さい身体を示したが、この週齢ではそれ以外骨格の変化は認めなかった。
 一方tgマウスは重度な矮小発育症、口蓋裂を示し、呼吸不全で出生直後に死亡した。胎生18.5日の骨格標本は鐘状の胸部を呈し、軟骨性内骨化から成る全ての長管骨が短縮していた。胎生16.5~18.5日の頸骨組織標本を観察すると、細胞外マトリクスが少なく高密度で存在する静止軟骨細胞、乱れた円柱状構造の増殖軟骨細胞、狭い肥大軟骨細胞層が見られ、血管侵入が遅れていた。静止軟骨層では、BrdUを取り込む細胞が多く、アポトーシス起こす細胞が認められた。またGalnt3高発現のtgマウスで起きたIhh、Pthlh、Col10a1およびSpp1の発現低下は軟骨細胞の肥大化の阻害を明示した。
 tgマウスの成長板は、サフラニンOでまだらに染色され、プロテオグリカンの異常が示唆された。一方PAS染色は増強しており、中性グリコール基を含む糖分子の増加を示していた。これを手掛かりに、Vicia villosa凝集素 (VVA) を用いてGalntファミリー酵素によって合成されるTn抗原(セリン又はスレオニン残基に結合したGalNAc)の存在を追求した。生後10日のGalnt3–/–軟骨ライセートは、野生型と同様のVVA反応を示した。胎生18.5日の中足骨切片上Tn抗原は、野生型マウスの静止・増殖・前肥大軟骨細胞において検出されたが、tgマウスではこれらの細胞層で非常に強く検出された。胎生15.5日のtg軟骨では、アグリカンは減少していたが、免疫沈降したアグリカンは増強したVVA反応を示した。グリコサミノグリカン(GAG)のコンドロイチン硫酸鎖を定量したが、tgマウスで減少していた。しかし、コンドロイチン硫酸鎖のピークの長さは、野生型と同様であった。これらの結果は、Galnt3はセリン/スレオニン残基にGalNAcを付加し、GAG形成の最初のステップを担うキシロシルトランスフェラーゼによるキシロース付加と拮抗し、ムチン型糖鎖を増やし、GAGを低下させることを示している。これにより、アグリカンの分泌が阻害されるともに、分解が進むと考えられる。
 したがって、tgマウスにおける長管骨の短縮、軟骨細胞の異所性アポトーシス、肥大化の減速は、アグリカンのムチン型-O-糖鎖の増加、およびそれに起因するGAGの減少によるアグリカンの著減が原因と考えられた。

吉田 カロリナ アンドレア

著者コメント

 tgマウスが示したプロテオグリカンの減少のメカニズムとして、我々はコントロイチン硫酸合成開始に関わるキシロシルトランスフェラーゼとGalnt3の競合を考えている。セリン残基へのGalNAcの付加は、キシロースの付加を阻害し、コンドロイチン硫酸鎖の合成及びアグリカンプロテオグリカンの分泌を阻害すると考えられる。そしてコンドロイチン硫酸の鎖長が正常であった事から、合成過程でキシロシルトランスフェラーゼによる第一の工程が完了した場合には、糖鎖の伸長は正常に進むと考えられる。またアグリカンのムチン型-O-グリコシル化の生理的な意味は明らかではないが、Galnt3以外のGalnt遺伝子ファミリーメンバーも、軟骨で発現を示したことから、これらの酵素はアグリカン及び未知のタンパク質のGalNAc付加を通して軟骨細胞機能を調節するのではないかと考えている。
 本研究論文は小守教授のご指導のもと、多くの方々の叡智とご協力のおかげで成し遂げました。皆様に厚く御礼申し上げます。(長崎大学歯薬学総合研究科細胞生物学分野・吉田 カロリナ アンドレア)