日本骨代謝学会

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身体活動度によって活性型ビタミンDと死亡、骨折の関連は異なる:日本透析医学会統計調査に基づく前向き研究

Performance status modifies the association between vitamin D receptor activator and mortality or fracture: A prospective cohort study on JSDT Renal Data Registry.
著者:Miho Murashima, Takayuki Hamano, Takeshi Nishiyama, Kazuhiko Tsuruya, Satoshi Ogata, Eiichiro Kanda, Masanori Abe, Ikuto Masakane, Kosaku Nitta
雑誌:J Bone Miner Res. 2022 Jun 11. doi: 10.1002/jbmr.4621.
  • ビタミンD
  • 血液透析
  • 身体活動度

論文サマリー

 活性型ビタミンDは慢性腎臓病における続発性副甲状腺機能亢進症の治療に広く使用されているが、活性型ビタミンDが生命予後、骨折に及ぼす影響については、議論がある。一方で、身体活動度(PS)は骨代謝の重要な規定因子であるにもかかわらず、透析患者においてPSが骨代謝に及ぼす影響についての研究はほとんど無かった。

 今回の研究では、日本透析医学会統計調査データをもとに、血液透析患者において、骨代謝マーカー及び活性型ビタミンDと生命予後、骨折の関連にPSが及ぼす影響について検討した。208,512人の血液透析患者のうち、128,535人が活性型ビタミンDを投与されていた。PSの低い患者では、副甲状腺ホルモン(PTH)が低いにもかかわらず、ALPが高く、Caも高い傾向にあった(図1)。さらにPSの低い患者では活性型ビタミンD投与でCa上昇が顕著であった。活性型ビタミンDは、全体では、全死亡、骨折と有意な関連を認めなかったが、PSの良い患者では、活性型ビタミンD投与で全死亡、骨折が少なく、逆にPSが低い患者では、全死亡、骨折が多い傾向がみられた(図2,図3)。死亡の原因別に検討すると、活性型ビタミンDと死亡の関連が身体活動度によって影響を受けるのは、心血管系疾患による死亡のみであった。身体活動度の低い患者では、不動のために骨形成が低下するも骨吸収が亢進しており、そのような状況下に活性型ビタミンDを投与すると、腸管から吸収されたCaが骨にとりこまれないため、高Ca血症を悪化させ、血管石灰化を介して、心血管系疾患による死亡を増加させるのではないかと考えれらた。また、骨折についてはPTHの過剰抑制の結果、低回転骨になり骨折を増加させるのではないかと考えられた。身体活動度によって続発性副甲状腺機能亢進症の治療を変えた方がよいかもしれないことを示唆する結果であった。

村島 美穂
図1:身体活動度(PS)と骨代謝マーカー
PS0が身体活動度が高く、PS4がほぼ寝たきり。VDRA: 活性型ビタミンD

村島 美穂
図2.活性型ビタミンDと全死亡の関連

村島 美穂
図3. 活性型ビタミンDと大腿骨骨折の関連

著者コメント

 私が臨床研究を始めたのはアメリカ臨床留学中の2006年でした。2008年に日本に帰国してから、日本とアメリカの両方で臨床をした経験のある医師の視点で研究をしたいと常に思ってきました。CKD-MBDの研究に関わりだしたのも、海外と日本のCKD-MBDガイドラインがあまりに違っていることに驚いたことがきっかけで、決してCKD-MBDの専門家になろうと思ったことは一度もなく、今でも大の苦手です。活性型ビタミンDのCKD-MBD治療における位置づけは議論があり、今回の研究でも全体で活性型ビタミンDとアウトカムに有意な関連が見いだせなかったことで研究の方向性について悩みましたが、PSという新たな軸を導入することで興味深い結果を得られました。アイデアを与えていただいた濱野先生ありがとうございます。研究は常に最後まであきらめず、根気よくデータに向かい続ければ臨床に大事な情報を届けられると信じてやっています。(名古屋市立大学腎臓内科・村島 美穂)