日本骨代謝学会

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リソソームに局在するV-ATPaseのa3サブユニットは、破骨細胞においてRab7のGEFであるMon1-Ccz1の分泌リソソームへの局在に関与している

The lysosomal V-ATPase a3 subunit is involved in localization of Mon1-Ccz1, the GEF for Rab7, to secretory lysosomes in osteoclasts.
著者:Naomi Matsumoto, Mizuki Sekiya, Ge-Hong Sun-Wada, Yoh Wada, Mayumi Nakanishi-Matsui
雑誌:Sci Rep. 2022 May 19;12(1):8455. doi: 10.1038/s41598-022-12397-w.
  • 分泌リソソーム
  • V-ATPase
  • Mon1-Ccz1

中西 真弓
左より、河野、矢野、松元、中西(松井)、關谷。

論文サマリー

 骨吸収を担う破骨細胞への分化に伴い、リソソームが波状縁へ向かって移動し形質膜と融合することで、リソソーム酵素が骨吸収窩に分泌される。「分泌リソソーム」と呼ばれるこの仕組みにより、リソソーム膜に局在していたプロトンポンプV-ATPase(液胞型ATPase)は形質膜へ輸送されて骨吸収窩を酸性化し、リソソーム酵素による骨吸収を可能にする。このように、分泌リソソームは骨吸収に不可欠であるが、その詳細な輸送機構は不明であった。当研究室では、これまでに、遺伝子改変マウスなどを用いた解析により、リソソーム膜に局在するV-ATPaseのa3サブユニットが、分泌リソソームの輸送に不可欠であること、リソソーム輸送因子である低分子量GTPase、Rab7と結合し、細胞質から分泌リソソームへリクルートすることなどを明らかにした(Sci. Rep. 2018, 8, 6701)。本論文では、a3を介したRab7のリクルート機構について、さらに詳細に解析し報告した。

 V-ATPaseを構成する複数のサブユニットは、細胞またはオルガネラに特異的なイソフォームを有する。プロトン輸送路を形成しているaサブユニットのa3イソフォームは、破骨細胞への分化に伴い発現が強く誘導され、分泌リソソームのV-ATPaseを構成している。Rab7を含む低分子量GTPaseは、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)によりGDP結合型(不活性型)からGTP結合型(活性型)へと変換される。a3は不活性型固定変異体のRab7と特異的に結合することから、この結合はRab7のGEFであるMon1-Ccz1を介していると予想した。そこで、HEK293T細胞を用いた免疫沈降法により検討したところ、a3はMon1-Ccz1と結合し、また、Mon1-Ccz1の発現量を増やすと、不活性型固定変異体Rab7の共沈量が増加した。a3はMon1-Ccz1を介してGDP結合型Rab7と結合していると考えられる。さらに、抗Ccz1抗体を用いて破骨細胞を染色したところ、野生型ではCcz1が分泌リソソームへ局在したのに対し、a3欠損細胞では細胞質全体に散在していた。これらの結果は、分泌リソソーム膜に局在するa3が、Mon1-Ccz1と結合して細胞質から分泌リソソームへリクルートし、その後Mon1-Ccz1を介してGDP型Rab7をリクルートすることを示唆している。また、GDP型Rab7は分泌リソソーム膜上でMon1-Ccz1により活性化されると考えられる。この仕組みは、分泌リソソーム輸送のトリガーであるため特に重要である。

 本研究は、V-ATPaseが破骨細胞において二重機能(骨吸収窩の酸性化と分泌リソソームの細胞内輸送)を担うことを示している。また、Rabファミリータンパク質がGEFにより活性化されることは広く知られていたが、活性化される場所が細胞質なのかオルガネラ膜上なのかについては、十分に解明されていなかった。本研究は、破骨細胞において、Rab7が分泌リソソーム膜上、すなわちオンサイトで活性化される機構を明らかにした点でも興味深い。将来的には、大理石病や骨粗鬆症など骨代謝異常症の新規治療法の開発につながる成果であると期待している。

中西 真弓
V-ATPase a3イソフォームによるMon1-Ccz1およびRab7のリクルートと活性化

著者コメント

 V-ATPaseは単にプロトンを輸送するだけの脇役的存在かと思ったら・・・実際のところ、大違いでした。V-ATPaseやV-ATPaseが形成する酸性環境は、インスリン分泌、シグナル伝達、がん細胞の浸潤・転移、細胞老化などで重要な役割を果たしています。今回紹介した論文では、破骨細胞において、V-ATPaseがプロトン輸送だけでなく、オルガネラ輸送因子のリクルートもしているという研究の一端を報告しました。V-ATPase worldは、今後も広がる気配です。
 a3欠損マウスから回収した脾臓細胞にウイルスを用いて遺伝子導入した後、破骨細胞へ分化させるには、順調でも3週間ほどの時間がかかります。結果を楽しみにしていても、うまく分化せず、一同ため息・・・ということも少なからず。それでも納得のゆく結果を得るまで根気よく取組んだ松元奈緒美博士、研究室のスタッフ、ご協力いただいた多くの方々に、この場を借りて心より感謝申し上げます。(岩手医科大学薬学部生物薬学講座機能生化学分野・中西(松井)真弓)