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エピジェネティック制御因子UHRF1は関節リウマチにおける炎症性サイトカイン発現を網羅的に抑制する

Epigenetic regulator UHRF1 suppressively orchestrates pro-inflammatory gene expression in rheumatoid arthritis
著者:Noritaka Saeki, Kazuki Inoue, Maky Ideta-Otsuka, Kunihiko Watamori, Shinichi Mizuki, Katsuto Takenaka, Katsuhide Igarashi, Hiromasa Miura, Shu Takeda, Yuuki Imai
雑誌:J Clin Invest. 2022 Jun 1;132(11):e150533. doi: 10.1172/JCI150533.
  • 関節リウマチ
  • エピジェネティクス
  • 滑膜線維芽細胞

佐伯 法学

論文サマリー

 関節リウマチ(RA)において滑膜細胞のエピジェネティック異常(DNA低メチル化など)が病態の増悪に関わっていることが示唆されていたが、異常を来すメカニズムは不明であった。我々は、マウスおよび臨床サンプルを用いて、関節リウマチ病態に寄与するエピジェネティック制御分子の同定とその分子メカニズムの解析を行い、同定された分子が新規治療標的となり得るか評価した。

 まず、ゲノムワイド遺伝子発現解析により、関節炎モデルマウスの後肢組織でmRNAの有意な発現上昇を認めるDNAメチル化促進分子Uhrf1を同定した。免疫染色にて、マウス関節炎組織の滑膜線維芽細胞 (SF)にUhrf1の局在を認めたため、SF特異的Uhrf1欠損 (cKO)マウスを作出し、関節炎を誘導した。その結果、Controlマウスと比較してcKOマウスでは滑膜肥厚、関節破壊、アポトーシス抵抗性など様々な関節炎病態の有意な増悪を認めた。そこで、Uhrf1によるDNAメチル化の標的遺伝子を探索するため、cKOとControlマウス由来のSFを用いてRNA-seqとMBD-seqのゲノムワイド統合解析を行った。その結果、cKO由来SFで発現上昇した遺伝子のうち、パスウェイ解析にて「サイトカイン」および「関節リウマチ」に関連する8遺伝子をUhrf1のDNAメチル化標的遺伝子として同定した。次に、臨床サンプルの解析において、変形性関節症(OA)滑膜と比較してRA滑膜ではUHRF1発現が有意に高かった。さらに、RA患者のDAS28と滑膜組織のUHRF1 発現との間に有意な負の相関を認めた。また、RASF のUHRF1発現は、CCL20(Th17遊走を担うケモカイン)の発現および滑膜組織内のTh17細胞数、アポトーシス抵抗性と負の相関があることが明らかとなった。これらのことから、UHRF1がRA病態のネガティブフィードバック機構に寄与すると考え、UHRF1タンパクの発現維持化合物としてRyuvidineを同定し、関節炎モデルマウスに投与した。その結果、Ryuvidineが滑膜増生やCcl20発現を含む関節炎病態を有意に抑制した。さらに、RASFを用いたオルガノイド培養もRyuvidine投与により有意に抑制された。以上より、RASFに発現するUHRF1は増悪因子を網羅的に抑制する保護因子であり、UHRF1発現を維持させることは新たな治療戦略になり得ることを明らかにした。

佐伯 法学
図:RA患者の滑膜組織ではUHRF1発現に高低があり、発現レベルと疾患活動性には負の相関が認められる。UHRF1発現が低いとDNA低メチル化を呈し、様々な増悪因子の発現が促進される。

著者コメント

 我々の研究結果から、UHRF1の発現を維持することで関節リウマチ病態を改善することが期待されます。今後更なる研究を進め、UHRF1をターゲットとした関節リウマチの創薬基盤を確立したいと考えています。
 本研究がアクセプトされるまでの道のりは長く困難で、多くの先生方のご協力なくしては成し得ませんでした。責任著者の今井先生をはじめ、共著者の井上先生(Nankai大学)、大塚先生、五十嵐先生(星薬科大学)、渡森先生、竹中先生、三浦先生(愛媛大学)、水木先生(松山日赤)、竹田先生(虎ノ門病院)に心より御礼申し上げます。(愛媛大学プロテオサイエンスセンター病態生理解析部門・佐伯 法学)