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RANKLとSema4Dの阻害はマウスにおける顎堤吸収の進行を抑制する

Inhibition of RANKL and Sema4D improves residual ridge resorption in mice.
著者:Meri Hisamoto, Shunsuke Kimura, Kai Iwata, Toshihiko Iwanaga, Atsuro Yokoyama
雑誌:Sci Rep 2022 Mar 8;12(1):4094.
  • 顎堤吸収
  • RANKL
  • Sema4D

久本 芽璃
(左)木村俊介准教授 (中)久本芽璃 (右)横山敦郎教授

論文サマリー

 顎堤吸収は、デンタルインプラントの埋入や安定した義歯の装着を困難にし、食事の制限や会話への支障、認知機能の低下にも影響を及ぼす。顎堤吸収の要因として,加齢、顎堤に加わる過度な機械的刺激や歯周病などが考えられているが,ホルモンや分子レベルでの内的要因については不明である。また,顎堤吸収を抑制する治療法も確立されていない。

 本研究では、顎堤吸収の要因を解明するためマウス抜歯モデルを構築し、小型動物用X線CT装置を用い上顎骨の長期的な形態学的変化、骨体積と骨密度を計測した。健常な状態のマウスでは一時的に急激な骨体積の減少が起きたがその後の骨体積はほぼ一定の値を示し、骨密度も早期に回復した。つまり、全身疾患がなく,健康的な口腔内環境を保った状態では顎堤吸収は進行しないことを示している。次にこの抜歯モデルに卵巣摘出術(OVX)を適用し、顎堤吸収と閉経後骨粗鬆症の関連性を検証した。骨体積は二相性の減少を呈し、初期段階で急激に減少しその後長期間骨量が減少した。これはヒトの顎堤吸収とよく似た症状である。骨密度は偽手術(sham)群と比較して十分に回復しなかった(図1)。よって、卵巣機能の低下は抜歯窩の治癒を遅延させ、顎堤吸収を引きおこす要因となる可能性を示唆した。分子レベルで顎堤吸収の原因を明らかにするため、sham群とOVX群の抜歯部位からtotal RNAを回収し,定量的PCR法により骨代謝関連分子のmRNA発現変動を調べた。OVX群においてTnfsf11(RANKL)とSema4dの発現が、抜歯後持続的に増加したことから、RANKLとSema4Dが顎堤吸収に関与している可能性を示唆した。そこで、RANKL中和抗体とSema4D中和抗体をOVXマウスに全身投与し,顎堤吸収への影響を検証した。RANKL中和抗体では抜歯窩を早期に修復し顎堤吸収を抑制した(図2)。また、Sema4D中和抗体はコントロールと比較して骨体積が増加した(図3)。よって、RANKL中和抗体とSema4D中和抗体の全身投与は顎堤吸収の進行を抑制する新規治療法に成り得ることを示唆している。しかし、抗RANKL抗体は副作用として顎骨壊死を引き起こす可能性を否定できない。

 本研究の実験モデルは,顎堤吸収抑制効果の新たな分子の発見と,治療法の開発のための有用なツールとなると考えられる。

久本 芽璃
図1. OVXマウスの抜歯後の上顎骨の解析。上顎骨のCT-3D画像による形状変化(a)、OVX群とsham群の骨体積とCT値の比較(b, c)。

久本 芽璃
図2. 抗RANKL抗体の全身投与スケジュール(a)、PBS投与と比較した抗RANKL抗体の骨体積(b)とCT値(c)。

久本 芽璃
図3. 抗Sema4D抗体の全身投与スケジュール(a)、抜歯後12週での抗体投与なし(コントロール)と抗RANKL抗体の骨体積の比較(b)

著者コメント

 顎堤吸収は他の骨とは異なる顎骨特有の症状であることから、様々な臨床例が報告され多様なリスク要因が指摘される一方で,普遍性を見出すのが難しい研究分野です。本論文は顎堤吸収に関連する顎骨骨代謝の研究に新たな知見を見出すことができました。OVXマウスの抜歯は骨が脆弱なため非常に難しく、抜歯のアシストをして頂いた当時大学院生だった岩田航君に感謝します。本研究の遂行にあたり多大なお力添えをして下さった慶應義塾大学薬学部 木村俊介准教授、大学院修了後も研究室を貸して下さりご助言をして下さった北海道大学医学部 岩永敏彦教授や研究室の皆様方、そして様々なご助言をして下さった横山敦郎教授に心より感謝申し上げます。(北海道大学大学院歯学研究院口腔機能学分野 口腔機能補綴学教室・久本 芽璃)