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TOP > 1st Author > 川口 美紅

慢性運動に関連した筋骨連関におけるPMP22の役割

Role of peripheral myelin protein 22 in chronic exercise-induced interactions of muscle and bone in mice
著者:Miku Kawaguchi, Naoyuki Kawao, Masafumi Muratani, Yoshimasa Takafuji, Masayoshi Ishida, Yuko Kinoshita, Yuto Takada, Yuya Mizukami, Takashi Ohira, Hiroshi Kaji
雑誌:J Cell Physiol. 2022 Feb 22. doi: 10.1002/jcp.30706.
  • 筋骨連関
  • マイオカイン

川口 美紅
前列左は共筆頭著者の山下さん、前列右は著者。後列左は石井優教授、後列右は菊田順一准教授。

論文サマリー

 サルコペニアや骨粗鬆症の関連から、筋骨連関が注目されている。筋骨連関において骨格筋から分泌され骨に作用する体液因子であるマイオカインは、運動療法の生体マーカーとして期待されている。最近、私共はマウスにおいて慢性運動に応答して骨代謝に影響をおよぼすマイオカインとして、アイリシンを報告した。しかし、アイリシンは種々の病態の筋骨連関に関わるため、慢性運動中に特異的に作用するマイオカインについては、いまだ解明されていない。今回の研究では、慢性運動で誘導され、筋骨連関に関与する新規マイオカインを同定するために、トレッドミル慢性運動負荷後のマウス筋のRNAシークエンス解析を行い、運動にかかわる新規マイオカインを抽出し、その筋骨連関における役割を検討した。

 初めに、トレッドミル慢性運動負荷を行ったマウスの腓腹筋およびヒラメ筋のRNAシークエンス解析を行い、慢性運動によって両方の筋で1.5倍以上の発現量増加を認める体液性因子として、peripheral myelin protein 22 (PMP22)を抽出した。慢性運動は、卵巣摘出による骨量減少を回復し、腓腹筋とヒラメ筋ともに PMP22発現を増加させたが、骨を含めて実験に使用した他の組織でのPMP22発現増加は見られなかった。また、両側坐骨神経切除非荷重マウスで腓腹筋のPMP22発現が有意に減少した。これらの結果から、PMP22が慢性運動により骨格筋で発現が増加することが示唆された。

 次に、破骨細胞におけるPMP22の作用を、マウス骨髄細胞にMCSFおよびRANKLを添加培養し検討した。PMP22は、RANKLによって誘導される破骨細胞形成、NFATc1、TRAP、カテプシンK、DC-STAMP発現、ミトコンドリア酸素消費率を有意に抑制したが、MafBおよびIRF-8発現減少を回復させた。また、PMP22は、マウス骨髄細胞におけるp38 MAPKのリン酸化を有意に増強したが、ERK1/2のリン酸化を抑制した。 RANKLによって誘導されるNF-κB経路では、PMP22は骨髄細胞におけるRANKLの存在下でのNF-κB p65のリン酸化を有意に減少させた。

 マウス初代骨芽細胞において、PMP22 は、骨芽細胞分化にかかわるRunx2、Osterix、ALP、オステオカルシンの発現、ALP活性、石灰化を有意に抑制したが、RANKL発現とRANKL/OPG比を増加させた。

 また、実験に用いたマウスにおける単相関分析により、腓腹筋とヒラメ筋のPMP22 mRNAレベルは、慢性運動の有無にかかわらず、マウスの大腿骨の皮質骨密度と正相関を示した。一方、マウス由来C2C12筋芽細胞へのPMP22の過剰発現は、筋分化、筋タンパク合成・分解に影響を与えなかった。

 以上より、PMP22が慢性運動により、骨格筋から分泌され循環を介し骨に作用することで、破骨細胞吸収の抑制をし、骨量増加に寄与する新規マイオカインであることが示唆された。

川口 美紅

著者コメント

 大学院生として、実験計画の立案、実験の基本的手技の習得・実践、データの解析、論文作成、右も左もわからないところからのスタートでしたが、なんとか論文として出すことができました。ご指導をいただきました梶先生をはじめ、教室の先生方に改めて感謝申し上げます。破骨細胞形成の実験では顕微鏡に酔いながらカウントしたり、論文を読むときにはなじみのない専門用語に四苦八苦したりと、大変でしたが実験の楽しさを知ることもできました。大学院生活はあと残り1年ですが、引き続き筋骨連関をテーマに研究を進めていきたいと思います。(近畿大学医学部再生機能医学講座・川口 美紅)