日本骨代謝学会

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LSD1は破骨細胞分化と炎症性骨破壊をHIF1AとE2F1を通じて細胞代謝調整により制御する

LSD1 metabolically integrates osteoclast differentiation and inflammatory bone resorption through HIF-1alpha and E2F1.
著者:Kohei Doi, Koichi Murata, Shuji Ito, Akari Suzuki, Chikashi Terao, Shinichiro Ishie, Akio Umemoto, Yoshiki Murotani, Kohei Nishitani, Hiroyuki Yoshitomi, Takayuki Fujii, Ryu Watanabe, Motomu Hashimoto, Kosaku Murakami, Masao Tanaka, Hiromu Ito, Kyung-Hyun Park-Min, Lionel B Ivashkiv, Akio Morinobu, Shuichi Matsuda
雑誌:Arthritis Rheumatol. 2022 Jan 25. doi: 10.1002/art.42074.
  • LSD1
  • 破骨細胞
  • 関節炎

土井 浩平
左:筆者、右:村田浩一先生

論文サマリー

 関節リウマチを始めとする炎症性関節炎では破骨細胞が活性化して骨破壊が生じます。患者のQOLを低下させ、機能障害や死亡のリスクを高めます。炎症環境下での破骨細胞活性化の機序を解明することにより、炎症性関節炎に特異的な新規治療薬の発見につがなる可能性があります。今回注目したLSD1は、ヒストンの脱メチル化により遺伝子の発現を調整します。ヒストンだけでなく、タンパクも脱メチル化することにより、細胞の分化・増殖を制御します。炎症環境下における破骨細胞分化や骨吸収において、多機能分子であるLSD1の役割について検討しました。

 LSD1特異的阻害剤やRNAiによるsilencingを使用し、ヒト単球での破骨細胞分化への影響を解析しました。 LSD1を抑制することで破骨細胞分化は抑制されました。また、破骨細胞分化関連遺伝子の発現も抑制されました。つぎに、RANKLや炎症性サイトカインによるLSD1の発現制御を解析しました。RANKLやTNF-α刺激によりLSD1タンパクの発現は亢進し、RANKLによるLSD1タンパクの発現亢進はm-TOR依存性でありました。

 RNA Sequenceにより破骨細胞分化におけるLSD1の役割について検討しました。破骨細胞分化においてLSD1を抑制することで、低酸素および細胞周期パスウェイが抑制されることが示唆された。HIF-1αは正常酸素下においてもRANKL刺激で発現を認めました。LSD1を抑制することでHIF-1αとE2F1の発現はともに抑制され、その標的遺伝子も抑制されました。破骨細胞分化において解糖系が亢進しますが、LSD1阻害剤を投与することで解糖系は抑制されました。低Ca食による骨粗鬆症促進マウスモデルやSKGマウスによる関節炎モデルにおいて、LSD1阻害剤を投与することで骨吸収促進を抑制しました。

 本研究において、LSD1を標的とした治療は、炎症環境下における骨破壊の新たな治療法となりうることが示唆されました。

著者コメント

 関節リウマチにおいて、生物学的製剤やJAK阻害剤など新しい薬が開発されてきました。これにより、疾患活動性が抑えられる患者さんも増えてきました。しかし、疾患活動性を抑えることが出来ない患者さんはまだまだおられます。今回、LSD1を標的とした治療がこのような患者さんの骨破壊抑制の治療法へと繋がることが期待されます。
  今回の研究につきまして、ご指導・ご協力いただきました、京都大学整形外科 松田教授、京都大学免疫膠原病内科 森信教授、理化学研究所 寺尾先生、また、Hospital for Special Surgery Park-Min先生、Ivashkiv先生、その他多くの関係者の方に厚く感謝申し上げます。(京都大学医学部整形外科学・土井 浩平)