日本骨代謝学会

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内分泌撹乱物質AhRリガンドであるB[a]PおよびFICZはAhR/Cyp1a1シグナル伝達経路を介して破骨細胞分化および骨代謝を制御する

Roles for B[a]P and FICZ in subchondral bone metabolism and experimental temporomandibular joint osteoarthritis via the AhR/Cyp1a1 signaling axis
著者:Yuri Yoshikawa, Takashi Izawa, Yusaku Hamada, Hiroko Takenaga, Ziyi Wang, Naozumi Ishimaru, Hiroshi Kamioka.
雑誌:Sci Rep. 2021 Jul;11(1):14927. doi: 10.1038/s41598-021-94470-4
  • AhRリガンド
  • Cyp1a1
  • 破骨細胞

吉川 友理
医局にて
(左から)井澤、浜田、吉川、上岡教授

論文サマリー

 ダイオキシン受容体として知られる転写因子AhR (aryl hydrocarbon receptor) は、様々な組織に発現を認め、最近では一部の免疫細胞にも高発現していることが分かっている。これまでAhRはRANKLシグナルを介した破骨細胞形成において重要であり、骨の恒常性と骨折の治癒にも関与することを報告してきたものの (Izawa T et al. J Immunol 2016)、各種AhRリガンドによる破骨細胞分化や骨代謝への詳細な影響については未だ不明な点が多い。また近年の疫学的研究では、たばこ煙中にAhRを活性化する有害物質B[a]P (benzo[a]pyrene) が極めて高レベル含まれており、喫煙によって生体内のAhRは活性化され、炎症関連病態である骨粗鬆症や関節リウマチ、変形性顎関節症との関連が示唆されている。さらに必須アミノ酸のトリプトファン代謝物であるFICZ (6-formylindolo[3,2-b]carbazole) は高親和性の内因性AhRリガンドとして知られており、FICZによるAhRの活性化が皮膚の炎症を減弱し皮膚のターンオーバーに関与することが報告されている。

 そこで本論文では、ダイオキシン受容体AhRの外因性リガンドB[a]P及び内因性リガンドFICZなどの種々のAhRリガンドを使用して破骨細胞による関節下骨吸収へのメカニズムについて解析を行った。野生型マウス及びAhR欠損マウスを用いて120 mg/kgのB[a]Pを6日間経口投与させ、関節下骨部及び破骨細胞への影響を比較検討した。B[a]P投与野生型マウスでは、関節下骨部において破骨細胞の活性上昇による骨量の減少、AhR標的遺伝子の一つであるCyp1a1の発現上昇を示した一方で、B[a]P投与AhR欠損マウスでは関節下骨量や破骨細胞活性において変化を認めなかった。

 また、過開口による変形性顎関節症 (TMJ-OA) モデルマウスを用いて100 μg/kg或いは100 mg/kgの用量のFICZを1週間に2回尾静脈注射して顎関節部及び破骨細胞への影響をvehicle投与群と比較検討した。FICZ投与TMJ-OA下顎頭を形態学的に解析した結果、下顎頭表面のびらんは減少傾向を示しており、組織学的解析においては過剰な破骨細胞集積、TUNEL陽性アポトーシス細胞のFICZ濃度依存的な減少傾向がみられた。一方TMJ-OAモデルマウス下顎頭ではAhRの標的遺伝子Cyp1a1の発現上昇を認めたものの、FICZ投与により有意にCyp1a1の発現低下がみられた。さらにin vitroにおいてもFICZ添加により破骨細胞形成能およびCyp1a1発現の低下を認めた。

 以上の結果より、AhRリガンドであるB[a]P及びFICZ投与により、下顎頭において各々異なる作用を示し、AhRリガンド刺激によるCyp1a1を介したAhR活性化経路が破骨細胞分化において重要な役割を果たしていることが示唆された。これらの所見は、TMJ-OAを含めたAhR関連の炎症性骨代謝疾患に対する新しい治療方法への開発及び臨床応用に大きな意義を有することが期待される。

吉川 友理
図:B[a]Pは、AhR/Cyp1a1シグナル伝達経路を介して関節下骨の骨吸収を促進する。 一方FICZは、同じくAhR/Cyp1a1シグナル伝達経路を介しているが、TMJ-OAの関節下骨の骨吸収を抑制する。

著者コメント

 ダイオキシン毒性に重要なAhRの生理学的意義についてはこの10年余りの研究によって飛躍的に理解が深まってきており、現在でも免疫学の分野を中心に重要な研究成果の発表が相次いでいます。今回、AhRリガンドであるB[a]P及びFICZ投与により共通の分子Cyp1a1を介しているものの、破骨細胞分化や下顎頭骨代謝において各々異なる作用を示すといったAhRの多彩な機能の一端を明らかにすることができました。私にとって本研究は、大変難解で緻密な手技を必要とし困難を感じましたが、井澤 俊先生のご指導の下で研究する機会を与えて頂きましたことに深く感謝いたしております。またいつも温かく見守って下さいました上岡 寛教授にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。(岡山大学 学術研究院医歯薬学域 歯科矯正学分野・吉川 友理)