日本骨代謝学会

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オステオサイト形態と骨ECM配向性の「異方性―異方性」相関

Quantitative Evaluation of Osteocyte Morphology and Bone Anisotropic Extracellular Matrix in Rat Femur
著者:Takuya Ishimoto, Keita Kawahara, Aira Matsugaki, Hiroshi Kamioka, Takayoshi Nakano
雑誌:Calcif. Tissue Int. 2021 Oct, 109[4], pp.434-444, doi: 10.1007/s00223-021-00852-1.
  • オステオサイト
  • ECM配向性
  • 骨質

石本 卓也

論文サマリー

 本論文は、骨メカノセンサーとして知られるオステオサイトのlacuno-canalicular systemの形態異方性と、コラーゲン/アパタイトからなる骨細胞外マトリックス(ECM)の優先配向性との間の「異方性―異方性」相関を初めて明らかにした。すなわち、応力負荷の大きな部位では、より伸長しかつ主応力方向に配列化したオステオサイトと、同じく主応力方向に優先配向化したECMが共存する。骨は、主応力が負荷する方向に特化してECM優先配向化構造を形成することで、主応力方向に高い強度特性(ヤング率等)を発揮する。今回の発見は、応力場の負荷によるECM配向化が、オステオサイトによるメカノセンシングの関与によって制御されていることを示唆する。すなわち、これまで、応力の「大きさ」を感知する(結果として骨量が調整される)ものと理解されてきたオステオサイトが、実際には応力の大きさのみならず『方向性』をも検出する(結果としてECM配向性も調整される)能力を有することを確信するに至った。

 主応力方向に伸展・配列化したオステオサイトは、骨小腔と垂直、すなわち主応力と直交する骨細管を主に有する。メカノセンシングの機序が骨基質のひずみによる骨細管中の流体流動であるとすれば、主応力と直交する骨細管では最も効率的にその主応力(応力の方向)を検出可能である(図)。結果として、主応力方向に優先配向化した骨基質が形成されヤング率が上昇すれば、流体流動は低減し、それ以上の配向性の上昇は停止する。こうしたメカニズムで、骨は、骨量だけではなく、ECM配向性によっても、機能適応を果たしているとの仮説を我々は立てている。この仮説の実証と生物学的機序の解明に向けて、in vivo、in vitroの両面から研究を継続している。

 さらに、本研究のもう1つの意義として、オステオサイト異方性―ECM配向性相関に基づけば、工学的な機器を駆使してヤング率や配向性の解析をしなくとも、医歯薬学研究者が日ごろから利用している種々の染色切片にてオステオサイトを観察することで、骨の力学機能が推測可能になるものと期待している。

石本 卓也
オステオサイトのlacuno-canalicular system形態異方性とメカノセンシングおよびECM配向との関係。(上段)fluid flow理論に基づいて、単一の骨細管における主応力に対するメカノセンシティビティの、主応力方向に対する骨細管走行方向依存性の可能性を示す模式図。(下段)伸展・配列の異なる特徴的な2種類のオステオサイトにおけるlacuno-canalicular system形態異方性に基づく感受性の差異とその結果としてのECM優先配向化のモデル図。

著者コメント

 本研究は、材料工学・細胞生物学を専門とする大阪大学の研究チーム(石本・川原・松垣・中野)と、オステオサイトの三次元イメージングや細胞間コミュニケーション解析の第一人者である岡山大学上岡寛教授とのコラボレーションによってはじめて完成しました。オステオサイトに倣いつつ、医歯薬工各分野の研究者が固く手を組むことで、骨研究のさらなる深化が実現していくものと期待しています。(大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻・石本 卓也)