日本骨代謝学会

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CDC5LはSOX9, COL2A1, WEE1のpre-mRNAスプライシングを調整して初期軟骨細胞分化と増殖を促進する

CDC5L promotes early chondrocyte differentiation and proliferation by modulating pre-mRNA splicing of SOX9, COL2A1, and WEE1
著者:Go Jokoji, Shingo Maeda, Kazuki Oishi, Toshiro Ijuin, Masahiro Nakajima, Hiroki Tawaratsumida, Ichiro Kawamura, Hiroyuki Tominaga, Eiji Taketomi, Shiro Ikegawa, and Noboru Taniguchi.
雑誌:J Biol Chem. 2021 Aug;297(2):100994. doi: 10.1016/j.jbc.2021.100994.
  • CDC5L
  • 後縦靭帯骨化症(OPLL)
  • RNAスプライシング

城光寺 豪
右から、城光寺、伊集院、前田

論文サマリー

 脊椎後縦靭帯骨化症(Ossification of the posterior longitudinal ligament; OPLL)は、後縦靭帯が肥厚して骨化し、脊髄や神経根を圧迫して麻痺を来す難病である。全ゲノム関連解析で疾患感受性領域と候補遺伝子が抽出されているが、責任遺伝子同定の為の各遺伝子の機能解析は始まったばかりである。我々はその一つCDC5L (cell division cycle 5-like)遺伝子の機能解析を行った。eQTL解析から、CDC5Lの発現はOPLLリスク・アレルを有するヒト線維芽細胞で増えていた。OPLLの病理組織変化は内軟骨性骨化に似た形式であるが、CDC5LはヒトOPLL組織内の増殖軟骨様細胞(SOX9+, type II collagen+, PCNA+)に発現し、マウス胎仔上腕骨の増殖軟骨層にも認めた。マウスATDC5細胞や初代軟骨細胞でCdc5lを siRNAノックダウンすると、細胞増殖が抑制され、細胞周期G2/M 移行がブロックされる事がFACS解析で分かった。この時、G2/M移行を抑制するWee1の発現が増えていた。内軟骨性骨化への影響を観る為にATDC5細胞などの軟骨細胞分化系でCdc5lノックダウンをすると、Sox9とCol2a1の発現が下がり、軟骨基質産生も抑制された。CDC5Lがpre-mRNAのスプライシング制御因子としても知られていたことから、エクソンとイントロンを区別するプライマーを用いてRT-PCRをしたところ、Cdc5lをノックダウンすると、Sox9とCol2a1のmRNAスプライシング効率が下がり、逆にWee1のmRNAでは促進した。このCdc5l siRNAの効果は、Cdc5lの強制発現でキャンセルされた。Cdc5l蛋白が実際にこれらのmRNAに結合することを、RNA免疫沈降実験で確認した。以上より、CDC5Lは靭帯の線維芽細胞または前駆細胞の軟骨様変性細胞に発現し、WEE1の発現を抑制する事で細胞周期G2/M移行を促進してその増殖を促し、一方でSOX9やCOL2A1発現を増加させて軟骨様変性(分化)を促進して、OPLLの後縦靭帯肥厚と内軟骨性骨化の初期変化に重要であることが示唆された。そして、これらの標的遺伝子発現変化は、CDC5Lが直接pre-mRNAスプライシングを調節した結果という事も分かった(図)。今後の可能性としては、CDC5L機能の抑制によるOPLLの発生初期変化の治療の方向性や、逆にCDC5Lの機能を強めれば、内軟骨性骨化を期待する再生医療への応用も考えられる。

城光寺 豪

著者コメント

 CDC5Lノックダウンにより細胞増殖と軟骨細胞分化が抑制されるという結果は比較的初期に出たのですが、これは通常は細胞増殖と細胞分化は相反する事象である事と逆であり、このメカニズムをどう説明できるかというところで苦労しました。また強制発現実験において、当初はアデノウイルス作製がうまくいかず苦労しましたが、最終的にはアデノ随伴ウイルスを用いて安定した結果が得られました。私は全くの研究初心者でしたが、基本的な事から実験計画・方法まで一から教えていただいた前田先生に深謝いたします。またCDC5Lを研究テーマとして扱うきっかけを頂いたOPLL研究班の先生方と、eQTL解析データを頂いた理研の中島先生と池川先生に厚く御礼申し上げます。リバイス実験を含めて色々な面で手伝って頂いた同僚の伊集院先生、俵積田先生、大石さん、テクニシャンの候さんにも深謝いたします。(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科整形外科学・城光寺 豪)