転写因子Dmrt2はSox9とRunx2を橋渡しすることで軟骨細胞分化を制御する
著者: | Koichiro Ono, Kenji Hata, Eriko Nakamura, Shota Ishihara, Sachi Kobayashi, Masako Nakanishi, Michiko Yoshida, Yoshifumi Takahata, Tomohiko Murakami, Seiichi Takenoshita, Toshihisa Komori, Riko Nishimura, Toshiyuki Yoneda |
---|---|
雑誌: | Commun Biol. 2021 Mar 11;4(1):326. |
- 軟骨細胞
- 転写因子
- Sox9
論文サマリー
骨格形成を担う内軟骨性骨化において、間葉系幹細胞は増殖軟骨細胞、肥大軟骨細胞へと変化する連続的な細胞分化が遂行される。初期の軟骨細胞分化には転写因子Sox9が、また肥大化においては転写因子Runx2が重要な役割を演じることが明らかとなっているが、Sox9からRunx2への時空間的連動を制御する分子メカニズムは不明であった。我々は、Sox9の標的遺伝子がSox9からRunx2の橋渡し役を担うとの仮説に基づき、初代培養軟骨細胞にSox9とその転写コファクターであるSox5/Sox6を過剰発現させRNAseq解析を行った。そして、Sox5/6/9により発現増加がみられる転写因子の一つとしてDmrt2(double-sex and mab-3 related transcription factor 2)を同定した。
マウス成長板軟骨におけるDmrt2の発現部位を組織学的に検討した結果、増殖層後期から前肥大化軟骨層に強く発現していることが明らかとなった。そして、Dmrt2は軟骨細胞においてRunx2と物理的に結合しIhhの発現を協調的に増加させることを見出した。Dmrt2遺伝子欠損マウス(Dmrt2-/-)は生後すぐに死亡し、内軟骨性骨化の遅延とdwarfismの表現型を示した。さらに興味深いことに、Dmrt2-/-マウス由来の初代培養軟骨細胞は、Runx2依存性のIhhの発現誘導が有意に低下していることが明らかとなった。
一方、Dmrt2はSox9の標的遺伝子あるがSox9の発現パターンとは一致せずに、上記の通り肥大化軟骨細胞に強い発現が観察された。この矛盾点を明らかにするために軟骨細胞のATAC-seqおよびChIP-seq解析を行った結果、Dmrt2の転写開始点上流約18kbにSox9の結合するエンハンサーが存在することを見出した。さらに、このエンハンサー領域は軟骨細胞分化が進行するにしたがってクロマチン状態が緩みH3K27のアセチル化が亢進することが明らかとなった。
本研究より、Dmrt2はRunx2と協調してIhhの発現を制御することにより内軟骨性骨化に関与すること、さらにDmrt2の遺伝子発現はエピジェネティックに制御されていることが明らかとなった。
著者コメント
本研究は大学院生として当教室に参画してくれた小野孝一郎先生(現 日本医科大学整形外科 講師)が中心となって行ってくれた研究です。3つのジャーナルにrejectされ(そのうち1つはリバイス後のreject)落ち込みましたが、エピジェネティック解析を追加したり、図の順番を入れ替えて大幅に書き直しをしながら、何とかacceptまで到達することができました。本研究の遂行にあたり多大なご協力を賜りました、共著の先生方および研究室員の皆様に厚く御礼申し上げます。(大阪大学歯学研究科生化学教室・波多 賢二)