日本骨代謝学会

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TOP > 1st Author > 黒田 有希子

聴覚に関連する高石灰化骨は特殊な骨芽細胞によって造られる

Hypermineralization of hearing-related bones by a specific osteoblast subtype
著者:Yukiko Kuroda , Katsuhiro Kawaai , Naoya Hatano , Yanlin Wu , Hidekazu Takano , Atsushi Momose, Takuya Ishimoto , Takayoshi Nakano , Paul Roschger , Stéphane Blouin , Koichi Matsuo
雑誌:J Bone Miner Res. 2021 Apr 27. doi: 10.1002/jbmr.4320.
  • 骨芽細胞
  • コラーゲン
  • 石灰化

黒田 有希子
松尾教授室にて
(左から)河合、黒田、松尾教授

論文サマリー

 多くの成獣哺乳類において、中耳や内耳の聴覚に関連する骨は石灰化度が高いことが知られている。また、骨形成異常を呈する複数の疾患で難聴が報告されていることから、耳の骨が聴力の維持に重要な役割を担っていると考えられる。老化において骨が硬くなる現象は既に知られているが、聴覚関連骨が硬くなるのは老化速度が早いだけなのか、もしくは成長段階において硬い骨が形成されるメカニズムが存在するのかはよく分かっていなかった。聴覚関連骨は生後から離乳時期にかけて内軟骨性骨化により石灰化骨が形成される。我々は、成獣マウスだけでなく、離乳直後のマウスでも聴覚関連骨の骨密度が高いことを見つけた。形成されたばかりの骨においても石灰化度が高い、という結果は、成長段階において骨密度の高い骨を造るメカニズムが存在することを示唆していたため、我々は聴覚関連骨を形成する骨芽細胞や骨基質に着目した。

 骨芽細胞はI型コラーゲンを主な骨基質として産生し、軟骨細胞はII型コラーゲンを軟骨基質として産生することが広く知られている。しかしながら、我々は、聴覚関連骨でコラーゲン基質を産生している細胞がI型に加えてII型コラーゲンも発現していることを見つけた。この細胞はII型コラーゲンを発現しているものの軟骨細胞ではなく、骨芽細胞であるといえる。その理由としては、聴覚関連骨でコラーゲンを分泌している細胞が後期骨芽細胞マーカーであるオステオカルシンを発現していること、石灰化骨の形成部位に局在していること、明確な骨細管構造を持つ骨細胞になることが挙げられる。以上の結果から、我々は聴覚関連骨を造る骨芽細胞(聴覚骨芽細胞)を新しい骨芽細胞の一種と結論付けた。また、聴覚骨芽細胞によって造られた骨を長管骨と比較すると、骨密度だけではなくアパタイト配向性も高いことが明らかとなった。骨密度やアパタイト配向性は音が骨を伝わる速度と正の相関を示すことが報告されており、聴覚骨芽細胞は振動を伝えやすい骨を造り、聴力に貢献していると考えられる。

黒田 有希子
図1:聴覚骨芽細胞の概要
聴覚骨芽細胞はI型に加えてII型コラーゲンを分泌し、骨密度とアパタイト配向性の高い骨を造る。

黒田 有希子
図2:聴覚骨芽細胞はゆっくりとカルシウム含量の高い骨を造る。
(A) 3週齢マウスのツチ骨と大腿骨の石灰化速度 (mineral apposition rate)。犠牲死の5日前 (d5)と1日前 (d1)にカルセインラベルを入れ、石灰化速度を算出した。
(B) 3週齢マウスのツチ骨と大腿骨の新生骨カルシウム含有量。犠牲死の5日前 (d5)と1日前 (d1)の間に産生された骨に含まれるカルシウム量を計測した。

著者コメント

 主に長管骨しかサンプルとして扱ったことがなかった私が、耳小骨と最初に格闘したのは、その「小ささ」です。今はその小ささが解析に有利だ、と感じるようになりましたが、耳小骨を扱い始めた頃は、切片を作ろうと思えばいつの間にか耳小骨がなくなり、取り出したかと思えば見失ってしまう、ということが頻繁におきました。また、分子生物学がバックグラウンドの私が、「骨の性質」を理解するために共同研究者たちが生み出したデータ、放射光を用いたCTやqBEI、 アパタイト配向性のデータを理解するまでは苦難の道のりでした。しかし、周囲の皆様の親切さと根気強さに支えられ、なんとか論文までたどり着くことができました。感謝しかありません。今後も、さらに骨の奥深さに迫る研究を続けていきたいです。(慶應義塾大学医学部 細胞組織学・黒田 有希子)