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ゲノムワイド相関解析で後縦靭帯骨化症の感受性座位を発見

A genome-wide association study identifies susceptibility loci for ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine.
著者:Masahiro Nakajima et al
雑誌:Nature Genetics, 2014, doi: 10.1038/ng.3045
  • 後縦靭帯骨化症(OPLL)
  • 全ゲノム相関解析(GWAS)

中島 正宏

論文サマリー

後縦靭帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine: OPLL)の発症に遺伝が関与していることは過去の疫学研究や連鎖解析の結果から明らかであるが、詳細は不明であった。我々は、OPLLの遺伝要因を明らかにするために、全ゲノム相関解析(GWAS)を行った。
まず、厚生労働省の『脊柱靭帯骨化症に関する調査研究班』などにより収集した日本人のOPLL患者1,112人と非患者6,810人のゲノムDNAを用いて、ヒトのゲノム全体に分布する約60万個のSNPの遺伝子型を解析し、OPLLの発症と相関するSNPを探索した。次に、これとは別のOPLL患者548人と非患者6,469人を対象に追試を行い、得られた相関の再現性を確認した。その結果、6つのゲノム領域(6p21.1、8q23.1、8q23.3、12p11.22、12p12.2、20p12.3)のSNPがOPLLの発症と強く相関することが明らかになった(図)。2つの結果を統合すると、6つのゲノム領域に存在するSNPのP値(GWASでは5×10−8以下だと相関があるとされる)は、9.4×10−9~1.1×10−13と非常に小さく、それぞれのゲノム領域で発症しやすいタイプのSNPを持つと、持たない場合にくらべてOPLLの発症リスクが1.3~1.4倍高くなった。
発見した6つのゲノム領域には機能が全く不明な遺伝子が数多く存在した。我々は、SNPが影響を及ぼす可能性がある感受性遺伝子の同定を目的として、この6つのゲノム領域に存在する63個の遺伝子についてトランスクリプトームデータベースであるFANTOM5を参照し、線維芽細胞と骨芽細胞で発現が異なる遺伝子を抽出した。また、ATDC5細胞の分化系を用いて、分化に伴って発現が変化する遺伝子を探索した。その結果、RSPH9およびSTK38Lの発現が線維芽細胞にくらべて骨芽細胞で高く、HAO1、RSPO2、CCDC91の発現がATDC5細胞の軟骨分化に伴って減少した。これらは膜性骨化、もしくは内軟骨性骨化の過程に関与すると考えられる。
本研究で明らかになった5つの遺伝子の靭帯骨化に関わる機能を詳細に解析することで、OPLLの病態解明を目指している。また、これらの遺伝情報と臨床情報を用いたOPLLの病態予測モデルの開発が期待できる。

中島 正宏
染色体上のSNPの位置

著者コメント

これまでわが国を中心にOPLLの原因遺伝子の探索が行われてきた。しかし、いずれの報告も検体数が少ないため、再現性に乏しく、信頼性が低い。本研究では約15,000人を対象とした、OPLLでは最大規模の相関解析を行い、遺伝要因として極めて信頼性が高い結果を得た。また、これまで骨・軟骨代謝との関連が知られていない遺伝子が数多く見つかり、OPLLの新たな病態解明の突破口になることが期待できる。
最後になりますが、検体および臨床情報の収集にご尽力を賜りました研究班の先生方に心より御礼申し上げます。また、本研究にご協力頂いた患者さん、ご家族の皆様に深く感謝致します。(理化学研究所・中島 正宏)