論文サマリー

　腱はコラーゲン線維が一軸方向に配列した構造を持ち、細線維、線維、線維束の階層構造を形成することで力学的特性を維持しています。XII型コラーゲンは、FACIT (Fibril Associate Collagens with Interrupted Triple Helices)に属し、その構造から線維形成をサポートする役割があると考えられています。私たちのグループは2014年に臨床症例においてCol12a1遺伝子変異を同定しました（Zou and Izu et al. Human Mol. Genet. 2014）。現在ではミオパチー型エーラス・ダンロス症候群として分類されている本疾患は、生後初期から関節の過伸展と筋肉脆弱症を示すことが特徴です。また、機械的負荷の高い腱・靭帯でXII型コラーゲンの発現が高いことから、XII型コラーゲンは腱の発達と機能に関与すると考えられました。そこで、本研究ではCol12a1欠損マウスを用いて、腱の発達におけるXII型コラーゲンの役割を解明することを目的としました。

　Col12a1欠損により、腱細胞の形状、隣接する細胞と相互作用する腱細胞突起の形成が変化し、腱の階層構造が消失していました（図１）。また、Col12a1欠損により、腱の剛性が低下し、腱機能が低下していることが明らかになりました。初代培養腱細胞を用いた解析により、XII型コラーゲンは隣接する腱細胞間を結合するマトリクスブリッジを形成しており、Col12a1欠損ではコネキシン43の局在が変化したことから、XII型コラーゲンは隣接する細胞間を物理的に結合することで、腱細胞間コミュニケーションの構築と安定性を制御することが示唆されました。さらに、Col12a1欠損腱細胞では、野生型と比較し、細胞外のI型コラーゲン量が減少することから（図２）、XII型コラーゲンが腱細胞によるI型コラーゲンの生合成を制御する可能性を示唆されました。電子顕微鏡による細線維プロファイリングでは、XII型コラーゲンはI型コラーゲン細線維と結合することで、細線維のパッキング、細線維の融合、安定性を制御することが明らかとなりました。

これらの結果から、XII型コラーゲンは腱構造の維持と腱機能の両方に作用することが明らかとなりました。XII型コラーゲンは、階層構造形成に必須な細胞間コミュニケーション制御を担うとともに、腱細胞へのI型コラーゲン生合成シグナルを制御することで、腱高次構造の組み立てに必要な腱の組織化と力学的特性を制御していることが示唆されました。本研究から、腱の階層構造と力学的特性の獲得には、これら両方の制御が必要であることが示唆されました。

著者コメント

　本研究には、南フロリダ大学の大学院生、テクニシャンなど多くの人たちの協力によりまとめることができた論文です。完成までに長い時間がかかってしまいましたが、このような形で論文掲載することができ、非常に嬉しく思っております。コラーゲン研究を牽引されてきた恩師である南フロリダ大学のDavid Birk先生は2020年6月で引退されてしまいましたが、長年に渡り、一緒に研究できたことは私の財産となっております。2018年から岡山理科大学獣医学部で研究室を立ち上げましたので、今後は、この仕事を引き継ぎ、発展させていきたいと思います。最後に、本研究にご協力いただきました全ての方達に深謝いたします。（岡山理科大学獣医学部獣医学科・伊豆 弥生）