日本骨代謝学会

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BMPが骨芽細胞で誘導するAtoh8はRunx2の転写活性を抑制しRankl/Opg発現比を減弱させることで破骨細胞分化を抑制する

BMP-induced Atoh8 attenuates osteoclastogenesis by suppressing Runx2 transcriptional activity and reducing the Rankl/Opg expression ratio in osteoblasts
著者:Yuhei Yahiro, Shingo Maeda, Masato Morikawa, Daizo Koinuma, Go Jokoji, Toshiro Ijuin, Setsuro Komiya, Ryoichiro Kageyama, Kohei Miyazono, Noboru Taniguchi.
雑誌:Bone Research (2020) 8:32.
  • 骨形成蛋白(BMP)
  • Atoh8
  • Runx2

前田 真吾
左列前より: 八尋、前田、伊集院、右:城光寺

論文サマリー

 BMP(bone morphogenetic protein)は文字通り”骨形成”因子ではあるが、adultの骨リモデリングにおいては、骨細胞にsclerostinを誘導し、骨芽細胞におけるWntシグナルの抑制を介してRankl/Opg発現比を上げ、破骨細胞分化と骨吸収を促進する事で、骨量を”負”に制御している。しかし、BMPの幼弱な骨芽細胞や骨髄間質細胞における役割はよくわかっていない。我々は、骨髄間質細胞(ST-2)や初代骨芽細胞において、BMP-Smad1/5シグナルが直接誘導する転写因子としてAtoh8を同定した(図1a)。8週齢マウス脛骨においてin situ hybridizationで確認すると、Atoh8は骨髄間質細胞(図1b, open arrowheads)と、lining骨芽細胞(図1b, arrowheads)に発現しており、骨細胞(図1b, asterisks)には発現がなかった。Atoh8 KOマウスは、胎仔期の骨格にはほとんど変化がなかったが、8週齢では、骨量が低下していた(図1c)。骨形態計測では、骨形成パラメーターには異常はなかったが、骨吸収が亢進していた(図1d)。これが破骨細胞のautonomousな影響か共培養実験してみると、骨髄間質細胞のgenotypeがKOの場合だけ、破骨細胞分化の亢進がみられた(図1e)。KO骨芽細胞のin vitroの分化能を観ると、Runx2発現以下分化マーカーが著明に亢進した(図1f)。そこでRunx2の転写活性亢進を疑い、OSE2レポーター・アッセイをすると、Atoh8はdose-dependentにこれを抑制した(図1g)。免疫沈降実験では、Atoh8はbHLHドメインを介してRunx2と複合体を形成することが確認された。ST-2細胞において、BMP刺激で増えたAtoh8はRankl/Opg発現比を抑制するが、これはAtoh8ノックダウンでレスキューされるものの、Runx2 siRNAにより再抑制されたことから、Atoh8の効果はRunx2抑制を介することが示唆された(図1h)。

前田 真吾

 以上の結果をまとめると(図2)、正常な骨リモデリングでは、骨髄間質細胞や幼弱な骨芽細胞においてBMP-Smad1/5シグナルによりAtoh8が直接誘導され、これがRunx2と結合してこの転写活性を抑制し、結果としてRunx2のpositive auto-regulationと初期骨芽細胞分化、そして付随するRankl/Opg発現比を抑制することで、過剰な破骨細胞分化を抑えて骨量を維持していると考えられた。Atoh8 KOマウスでは、Runx2の転写活性が増強し、ちょうどRunx2 Tgマウスの様にRankl/Opg発現比が増加して破骨細胞分化が亢進し、骨芽細胞分化成熟はnegative feedbackがかかり、その結果骨吸収優位となって骨量が減少すると示唆された。

前田 真吾

著者コメント

 我々がこの仕事を始め、Atoh8を同定してin vitroで機能解析を進めていた頃、運良く偶然にも東京大学分子病理学教室(宮園浩平教授)の森川真大先生も肺高血圧症におけるAtoh8の研究をされていることが分かりました。そこで共同研究をお願いしたところ、ノックアウトマウスを始め全面的なご支援を頂ける事になり、森川先生のお仕事が世に出た後(Morikawa M., et al., Sci. Signal., 12: eaay4430, 2019)、我々も無事に形に出来ました。宮園先生、森川先生、鯉沼代造先生に深謝致します。
 内容的に苦労したのは、1) KOマウスの骨は減るのに、in vitroの骨芽細胞分化は著明に亢進する事と、2) BMPのloss-of-functionマウスは骨吸収抑制により骨量が増えるのに、そのBMPの下流遺伝子Atoh8のKOマウスは逆に骨吸収が亢進して骨量が減る、という二つの矛盾をどう説明するかという事で、骨代謝の複雑さと奥深さを考えさせられました。これら矛盾と格闘しながら、先がどうなるか不安な中を懸命に頑張ってくれた八尋先生、リバイスを快く強力に手伝ってくれた城光寺先生と伊集院先生に敬意を表します。(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科・骨関節医学講座・前田 真吾)