日本骨代謝学会

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異なる骨吸収抑制薬に起因する顎骨壊死様病変の早期段階における免疫病理的相違

Distinct immunopathology in the early stages between different antiresorptives-related osteonecrosis of the jaw-like lesions in mice.
著者:Hayano H, Kuroshima S, Sasaki M, Tamaki S, Inoue M, Ishisaki A, Sawase T.
雑誌:Bone. 2020 Mar 3:115308. doi: 10.1016/j.bone.2020
  • 薬剤関連顎骨壊死
  • デノスマブ
  • F4/80⁺LYVE-1⁺細胞

早野 博紀・黒嶋 伸一郎

論文サマリー

 ビスホスホネート(BP)製剤とデノスマブは骨吸収抑制薬に分類され,顎骨壊死を惹起する(BRONJとDRONJ).我々は,両薬剤の作用機序が異なることに起因してBRONJとDRONJの病因と病態が異なると仮説を立てた.本研究の目的は,DRONJマウスモデルを作成し,当講座で作成済みのBRONJマウスモデル(Akita Y et al. J Bone Miner Metab. 2018, Kuroshima S et al. Bone. 2018, Kuroshima S et al. J Bone Miner Res. 2018)と比較検討することで,組織病理学的および免疫病理学的にBRONJとDRONJの病態と病因を明らかにすることにある.

 8週齢の雌性C57BL/6Jマウスを用いた.マウス用抗RANKL中和抗体投与群(mAb),抗癌剤投与群(CY),mAbとCYの併用投与群(CY/mAb),ならびに対照群(IgG抗体投与群:IgG)を作成した.一方,注射用BP製剤単独投与群(ZA),ZAとCYの併用投与群(CY/ZA),ならびに対照群(生理食塩水投与群:VC)を作成した.薬剤投与期間は5週間または7週間とし,各種薬剤投与3週間後に両側第1大臼歯を抜歯し,2週後と4週後に屠殺して,マイクロCT撮像,口腔内写真,各種組織染色,ELISA,各種特異抗体を用いた免疫染色により種々の解析を定量的に行った.

 抜歯4週後のCY/mAbとCY/ZAは高頻度に創部が開放していたことから,抜歯4週間後の創傷治癒不全状態をそれぞれDRONJ様病変とBRONJ様病変と定義して,抜歯2週間後のCY/mAbとCY/ZAにおける抜歯部位の硬軟組織治癒を詳細に解析した.その結果,抜歯窩骨量の減少,壊死骨の増加,著しい多形核白血球浸潤,ならびにコラーゲン産生低下による硬軟組織治癒遅延がともに惹起されていたことから,DRONJ様病変とBRONJ様病変の早期段階における組織病理学的所見はほとんど同じであることが分かった.一方,CY/mAbはCY/ZAよりも重篤な血管形成阻害が起こっていたが,リンパ管形成阻害と管腔様構造を構成するF4/80+LYVE-1+細胞数(直径≧20 µm)の減少はCY/ZAだけに認められた.以上から,異なる骨吸収抑制薬により惹起された顎骨壊死様病変は,肉眼的・組織病理学的には同じであっても,免疫病理学的には大きな違いが認められ,病態が異なることが分かった.BRONJとDRONJの病因は同じではないのかもしれない.

著者コメント

 BRONJやDRONJを含む薬剤関連顎骨壊死は,口腔関連QOLを低下させる難治性の硬軟組織疾患ですが,病因と病態が不明で有効な治療法は存在しません.本研究はBRONJとDRONJの両者が異なる免疫病理学的所見を有するという病態解明研究ですが,今後は,リンパ管への分化転換に寄与する細胞種の特定や,F4/80+細胞のさらなる動態解析を行う病因解明研究も行っていく予定です.いつの日か薬剤関連顎骨壊死の決定的な病因と確定的な治療法が開発されることを願って,更なる基礎研究を行っていきたいと思います.最後に本研究に御協力頂いた皆様に感謝申し上げます.(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔インプラント学分野・早野 博紀・黒嶋 伸一郎)