日本骨代謝学会

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骨リモデリングのコンピュータ内(in silico)実験による代謝性骨疾患およびその薬物治療効果の探求

In silico experiments of bone remodeling explore metabolic diseases and their drug treatment.
著者:Kameo Y, Miya Y, Hayashi M, Nakashima T, Adachi T.
雑誌:Sci Adv. 2020 Mar 6;6(10):eaax0938.
  • 骨リモデリング
  • コンピュータ内実験
  • 代謝性骨疾患

亀尾 佳貴

論文サマリー

 骨は、よく制御された骨吸収と骨形成の代謝バランスにより維持され、力学環境に適応した構造と機能を獲得する。この骨リモデリングの詳細な分子・細胞メカニズムについては、これまで多くの研究が行われてきた。しかし、骨代謝に関与する細胞間のシグナル伝達経路はあまりに複雑なため、骨疾患時や薬物治療過程において、リモデリングによる骨の形態変化を予測することは非常に困難である。そこで本研究では、分子・細胞の相互作用と組織・器官の形態変化とを関連付けた骨リモデリングの数理モデルを提案し、それを組み込んだ骨リモデリングのシミュレーション基盤「V-Bone」を開発した。このV-Boneを用い、コンピュータ内に構築した仮想的なマウスの大腿骨を対象として、様々なコンピュータ内(in silico)実験を行うことにより、V-Boneの妥当性を検証するとともに、その有用性を示した。

 まず、大腿骨内部に存在する網目状の海綿骨が、負荷された力学的荷重に応じてその構造を適応させるというWolffの法則をコンピュータ内で再現することができた。また、寝たきりや微小重力などの力学的な荷重の減少に起因する骨粗しょう症や、破骨細胞の分化のトリガーであるRANKL分子の発現異常にともなう骨粗しょう症、大理石骨病について、その病態を再現することに成功した。これらの結果を通じ、力学的・生化学的な観点からV-Boneの妥当性を定性的に示すことができた。次に、V-Boneの妥当性を定量的に評価するため、骨吸収抑制と骨形成促進の両方の作用を持つSema3A分子について、その発現を変動させるin silico実験を行った。本実験に対応するマウスin vivo実験との比較を通じ、in silico実験とin vivo実験の結果が定量的によく一致することを確認した。このことから、in silico実験はin vivo実験の再現にとどまらず、これまで困難であった分子、細胞、組織の時空間的な挙動の同時観察が可能であることを示した。さらに、V-Boneの医療応用として、骨粗しょう症に対するさまざまな薬物治療の効果の予測を試みた。このようなin silico投薬実験は、一般的な薬剤評価の指標である骨量や骨代謝マーカーの変化に加え、骨質(骨微細構造)の時間変化が予測可能であり、臨床応用に向けた可能性が示唆された。

 このようなV-Boneを用いたin silico実験は、従来の生体内(in vivo)実験や試験管内(in vitro)実験と並ぶ新たな研究手法として、今後の骨代謝研究の発展を推進させると考えられる。また同時に、網羅的な薬剤評価や効果的な投薬方針の策定などを促す臨床支援ツールとして、将来の医療への多大な貢献が期待される。

亀尾 佳貴
本研究のイメージ図 (c)2020 あいちゃん

著者コメント

 骨リモデリングのメカニズムを数理モデリングと計算機シミュレーションによって解き明かそうとする本研究は、著者らがおよそ30年間に渡って継続的に取り組んできた重要なテーマです。私自身も、博士学位論文の研究以来、間質液の流れに対する骨細胞のメカノセンシングを考慮した骨リモデリングの数理モデル構築とそのマルチスケール解析に取り組んで参りました。Wolffの法則の解明を目指し、リモデリングによる骨形態の力学的適応の研究としてスタートしましたが、この度、東京医科歯科大学 中島友紀先生、林幹人先生との共同研究を経て、骨代謝を制御する複雑な細胞間シグナル伝達までも考慮した全く新しいシミュレーション基盤の開発という形で実を結びましたことを大変嬉しく思います。本研究の成果を基軸として、今後の骨代謝研究のより一層の発展に貢献できますことを願っています。本研究を進めるにあたり、多大なるお力添えを賜りました皆様方に、心より感謝申し上げます。(京都大学ウイルス・再生医科学研究所・亀尾 佳貴)