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マウスの成長と歯の萌出に対する抗RANKL抗体およびゾレドロネートの生物学的作用

Biological Effects of Anti-RANKL Antibody and Zoledronic Acid on Growth and Tooth Eruption in Growing Mice.
著者:Isawa M, Karakawa A, Sakai N, Nishina S, Kuritani M, Chatani M, Negishi-Koga T, Sato M, Inoue M, Shimada Y, Takami M.
雑誌:Sci Rep. 2019 Dec 27;9(1):19895.
  • 抗RANKL抗体
  • ビスホスホネート

井澤 基樹・唐川 亜希子
著者近影 左より、高見正道教授、井澤基樹助教、唐川亜希子講師

論文サマリー

 小児の骨疾患には原発性および続発性の骨粗鬆症、骨形成不全症、骨巨細胞腫等があり、その治療にはビスホスホネート製剤が長年用いられている。また、近年では抗ヒトRANKL抗体製剤(一般名:デノスマブ)の応用も検討されている。しかし、成人で高い治療効果を示すこれらの骨吸収抑制薬が小児に対していかなる影響をもたらすのか、不明な点が多い。そこで本研究では、成長発達期における骨吸収抑制薬の投与が成長や歯の形成・萌出に及ぼす影響を解明するため、抗マウスRANKL抗体およびゾレドロネートを若齢マウスに投与し硬組織などの変化を解析した。

 抗RANKL抗体またはゾレドロネートをマウスに生後1週齢から毎週1回ずつ累積的に投与した後、成体となる8週齢目に屠殺し解析を行った。生理食塩水(対照群)、抗RANKL抗体(ヒト治療量と同濃度)またはゾレドロネート(ヒト治療量と同濃度〜過量濃度)をそれぞれ投与した結果、抗RANKL抗体投与群は対照群と同等の成長を示したが、ゾレドロネート投与群では投与量依存的に体長と体重の有意な低下が認められた(図1)。

井澤 基樹・唐川 亜希子
図1:ゾレドロネートの投与により成長が抑制された。

 抗RANKL抗体およびゾレドロネートは、いずれも大腿骨の骨量を増加させたが、骨の成長に対する作用は異なっていた。抗RANKL抗体投与群では破骨細胞数は著明に減少したが大腿骨長に影響はなかった。しかし、ゾレドロネート投与群では破骨細胞数は対照群と差を認めず、大腿骨長が有意に低下した。これは、ゾレドロネートが軟骨細胞や骨芽細胞による骨の成長にも影響をもたらしていることを示唆している。

 我々はさらに、歯の形成・萌出に対する抗RANKL抗体およびゾレドロネートの作用を解析した。抗RANKL抗体投与群では歯の形成と萌出に異常は認められなかったが、ゾレドロネートの過量投与群において歯の歯根形成不全と萌出不全が認められた(図2)。ゾレドロネート投与群の歯槽骨では破骨細胞数の増加と骨芽細胞数の減少が認められたことから、破骨細胞だけでなく、骨芽細胞も歯の形成や萌出に関与している可能性が考えられた。

井澤 基樹・唐川 亜希子
図2:ゾレドロネートの投与により歯根形成不全と萌出不全を生じた。

 以上の結果から、成長途中のマウスの骨代謝および歯の形成・萌出に対して抗RANKL抗体とゾレドロネートは異なる影響を及ぼすことが示された。特に、ゾレドロネートにおいては発育抑制や歯の形成・萌出不全作用が明らかとなり、本薬の投与量や投与時期によってはこのようなリスクが生じうることを意味する。(昭和大学歯学部歯科薬理学講座・唐川 亜希子)

著者コメント

 我々はゾレドロネートの過量(累積)投与がマウスの成長抑制や歯の形成・萌出不全を起こすことを明らかにしました。ビスホスホネート製剤の小児への投与は骨量を増加させますが、その副作用については十分なエビデンスは得られておらず、治療の判断は臨床現場に委ねられています。本研究で得られた知見が、今後小児患者さんの骨疾患治療に役立てば幸いです。(昭和大学歯学部小児成育歯科学講座・井澤 基樹)