日本骨代謝学会

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副甲状腺ホルモンはレプチン受容体陽性細胞の分化の方向性を脂肪細胞から骨芽細胞側にシフトする

Parathyroid Hormone Shifts Cell Fate of a Leptin Receptor-Marked Stromal Population from Adipogenic to Osteoblastic Lineage.
著者:Yang M, Arai A, Udagawa N, Zhao L, Nishida D, Murakami K, Hiraga T, Takao-Kawabata R, Matsuo K, Komori T, Kobayashi Y, Takahashi N, Isogai Y, Ishizuya T, Yamaguchi A, Mizoguchi T.
雑誌:J Bone Miner Res. 2019 Oct;34(10):1952-1963.
  • レプチン受容体陽性細胞
  • 骨芽細胞
  • 脂肪細胞

溝口 利英

論文サマリー

 骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)は自己複製能を有し、骨芽細胞の供給源として永続的に機能する。以前我々は、レプチン受容体 (LepR)がBM-MSCのマーカーとして有用であることを細胞系譜解析により明らかにした (Dev Cell 29:340, 2014)。さらに、LepR陽性細胞が幹細胞能を維持しつつ、骨芽細胞分化の初期マーカーであるRunx2を低発現していること、そして副甲状腺ホルモン(PTH)(1-34)が、LepR陽性細胞のRunx2の発現上昇を介して、骨芽細胞分化を促すことを示した(Sci Rep 7:4928, 2017)。本論文ではさらに、PTH(1-34)が及ぼすLepR陽性細胞の子孫細胞分化に対する作用を解析した。

 PTH(1-34)投与により、成熟骨芽細胞の数が増えることが知られている。我々の観察においても、PTH(1-34)投与後における、I型コラーゲン(Col1)陽性の成熟骨芽細胞の有意な増加が確認された。しかしながら、PTH(1-34)投与による、成熟骨芽細胞の増殖活性の亢進は認められなかった。一方で、LepR陽性細胞の増殖活性は、PTH(1-34)の投与により有意に上昇した。さらに、LepR-Creマウスを用いた細胞系譜解析により、PTH(1-34)がLepR陽性細胞からCol1陽性の成熟骨芽細胞への分化を促進することが示された。以上より、PTH(1-34)が成熟骨芽細胞を増やす理由は、LepR陽性細胞の増殖および骨芽細胞への分化が亢進する結果であると結論した(図)。

 次に、BM-MSCの脂肪細胞分化に対するPTH(1-34)の作用を調べた。卵巣を摘出した閉経後骨粗鬆症のモデル(OVX)マウスでは骨量が低下し、その一方で脂肪細胞分化が上昇する。細胞系譜解析により、OVXマウスで増加した脂肪細胞がLepR陽性細胞に由来することが示され、それらはPTH(1-34)の投与により減少した。また、OVXマウスにおいても、PTH(1-34)の投与はLepR陽性細胞の骨芽細胞分化を促進した。したがってPTH(1-34)は、LepR陽性細胞の分化の方向性を脂肪細胞から骨芽細胞側へとスイッチすることにより、骨粗鬆症を改善することが示された(図)。

溝口 利英

著者コメント

 楊孟雨(やん もんいう)さんが、松本歯科大学・大学院生として発表した2報目の論文です。私は2018年の4月に松本歯科大学から東京歯科大学に職場を移動しましたが、松本歯科大学の先生方の多大なるご協力を得て、オンラインミーティングを重ねることにより論文をまとめることが出来ました。楊さんは、私が留学を終えて帰国後にプロジェクトに参加してくれた最初の大学院生です。一貫してBM-MSCの研究に取り組み、2019年4月に大学院を無事に卒業しました。現在は、UCLA School of DentistryのReuben H. Kim先生の下で、博士研究員として硬組織研究に取り組んでいます。今後も情熱を持って研究に取り組み、さらに素晴らしい研究者に成長することを楽しみにしています。(東京歯科大学 口腔科学研究センター・溝口 利英)