日本骨代謝学会

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2種類の低分子化合物による、簡便で高効率なヒト多能性幹細胞の軟骨細胞への分化誘導法

Simple and Robust Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells toward Chondrocytes by Two Small-Molecule Compounds.
著者:Kawata M, Mori D, Kanke K, Hojo H, Ohba S, Chung UI, Yano F, Masaki H, Otsu M, Nakauchi H, Tanaka S, Saito T.
雑誌:Stem Cell Reports. 2019 Sep 10;13(3):530-544.
  • 軟骨細胞
  • 多能性幹細胞
  • 低分子化合物

河田 学

論文サマリー

背景:ヒト多能性幹細胞(hPSCs)の軟骨細胞への分化誘導法はいくつか報告があるが、多種類のサイトカイン・化合物を組み合わせた比較的複雑なprotocolのものが主である。低分子化合物(LWMC)はサイトカインと比較して安価に安定的に大量に製造可能であり、LWMCのみを用いた簡便なhPSCsの分化誘導法を確立することは軟骨再生医療や軟骨分化メカニズムの研究にとって極めて有用である。

方法・結果:Wnt/β-cateninシグナルの活性化剤であるCHIR99021、及びレチノイン酸受容体(RAR)作動薬であるTTNPBを組み合わせ、それらの投与期間や濃度・タイミングを最適化した所、ヒトiPS細胞(hiPSCs)の分化誘導後1-2日目(D1-2)で中内胚葉marker (T, MIXL1)の、D2-4で中胚葉marker (TBX6, MEOX1, HAND1等)の、D4以降で軟骨分化marker (COL2A1, COL11A2, SOX5, SOX6, SOX9等)の上昇が見られた。本誘導法D9における細胞sampleを、既報のサイトカインを用いた約14日間の軟骨分化誘導法により誘導したsampleと発現比較を行ったところ、良好な軟骨分化markerの上昇が見られ、一方で未分化細胞markerや他系統の分化markerは有意に低発現もしくは同等以下の発現量であった。D9のFACSでは、SOX9陽性細胞率は97.0%、OCT4/NANOG陽性細胞率は0.0%と良好な分化誘導効率を認めた。この分化誘導細胞をSCIDマウス膝関節に移植した所、ヒト組織特異的抗体陽性の硝子軟骨様組織の生着を認め、一方で腫瘍形成を生じた個体は無かった。Microarray解析でD9において発現上昇が見られた遺伝子群でGO解析を行ったところ、骨格や軟骨形成に関わるtermが最上位に抽出された。各分化段階のATAC-seqでは、各分化段階に特徴的なmarker遺伝子のenhancer領域の活性化が見られた。更にはRAR及びβ-cateninのChIP-seqを各段階で実施した所、SOX9を始めとした各分化段階の代表的な転写因子群のenhancer領域にpeakを認め、その中には両ChIP-seqで共通したpeak領域も見られた。

結論:CHIR99021及びTTNPBの組み合わせにより、簡便かつ高効率なhiPSCsの軟骨細胞への分化誘導が可能であった。またRA及びWnt/β-cateninシグナルは、各分化段階のmarker遺伝子のenhancer領域に作用し、一部は協調しながら分化の制御に直接的に関与していることが示された。

河田 学

著者コメント

 本研究を通して、iPS細胞を始めとした多能性幹細胞の持つ、生体の発生過程の解明にも迫ることのできる奥深さや、培養条件によってどんな細胞にも分化誘導できるという醍醐味の一端を垣間見ることできました。まだまだ駆け出しの半人前の研究者ではありますが、今後とも運動器分野の基礎研究の発展に少しでも貢献できるように引き続き精進していきたいと存じます。
 最後になりましたが、多大なるご指導頂いた田中 栄教授や齋藤 琢准教授を始めとする多くの先生方には、この場をお借りして心より御礼申し上げたいと存じます。(東京大学医学部附属病院整形外科・脊髄外科 河田 学)