日本骨代謝学会

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ヒトiPS細胞からのin vitro骨様結節誘導系の構築と骨疾患病態再現

In vitro bone-like nodules generated from patient-derived iPSCs recapitulate pathological bone phenotypes.
著者:Kawai S, Yoshitomi H, Sunaga J, Alev C, Nagata S, Nishio M, Hada M, Koyama Y, Uemura M, Sekiguchi K, Maekawa H, Ikeya M, Tamaki S, Jin Y, Harada Y, Fukiage K, Adachi T, Matsuda S, Toguchida J.
雑誌:Nat Biomed Eng. 2019 Jul;3(7):558-570.
  • iPS細胞
  • 骨様結節
  • 骨形成不全症

川井 俊介

論文サマリー

 骨組織は常に骨形成と骨吸収の過程を繰り返す(骨改変)動的組織である。正常な骨改変過程及びその病的状態を理解する上で、遺伝子改変マウスを用いたin vivoでの解析は重要な役割を果たしてきたが、創薬への応用を考えると、in vitroでの骨改変過程モデルの構築も重要なアプローチである。

 本研究では骨形成過程に焦点を絞り、ヒトiPS細胞を用いて、化合物スクリーニングに適した骨形成過程のin vitro再現系の構築を試みた。その結果、従来法にレチノイン酸を併用することで、10日間でiPS細胞から骨前駆細胞、骨芽細胞、そして成熟骨細胞を順次誘導し、骨様組織骨様結節の形成に至る誘導法の開発に成功した。遺伝子発現及び免疫組織染色から、その過程は未分化細胞から、骨前駆細胞、骨芽細胞を経由して成熟骨細胞に至っていることが確認された。

 また、共焦点顕微鏡を用いたイメージング、タイムラプスイメージングを用いて誘導分化過程の観察を行ったところ、誘導した結節表面には立方上で敷石状に配列した骨芽細胞様細胞を、結節内部には複数の突起を有した樹状の骨細胞様細胞を認め、さらに、骨細胞様細胞が結節表面から内部へ移動する過程を可視化した(図)。また、誘導した骨芽細胞を主体とする誘導7日目の細胞塊はin vivoで膜性骨組織を形成する能力を有していた。

川井 俊介
図:骨様結節の共焦点レーザー顕微鏡によるイメージング
(免疫染色(緑:アクチン、青:DAPI)、スケール:20μm)
[1]結節頂上付近の垂直断面:骨様結節表面(骨芽細胞様の立方細胞)から、突起を有した骨細胞様細胞の結節内への落ち込み
[2]結節底面付近の垂直断面:骨様結節内の突起を有した樹状細胞(骨細胞様細胞)の存在

 誘導された遺伝子群のオントロジー解析及び阻害剤を用いた実験から、レチノイン酸はα型及びβ型レチノイン酸受容体を介して、BMP及びWNTシグナルの両者を誘導することで骨分化誘導を促進していることが判明した。

 この誘導系を用いて、遺伝性骨疾患の一つである骨形成不全症(OI)の病態再現を行った。COL1A1遺伝子変異陽性のOI患者由来のiPS細胞を用いて、上記の分化誘導実験を行うと、標準的iPS細胞と比較して骨様組織形成能の低下、Ca塩沈着の低下、コラーゲン線維の質的量的異常、及びERストレスの亢進など、これまで指摘されているOIの病態が再現された。これらの機能異常は患者由来iPS細胞の変異を修復することにより改善されることから、原因遺伝子の変異に起因することが確認された。更にこの誘導系が薬剤スクリーニングに応用可能であることを検証するために、既報から有効性が示唆されているmTOR阻害剤を用いた実験を行ったところ、病態が部分的に改善されることが確認された。

 以上の結果より、このiPS細胞から骨様結節を分化する誘導系が、骨形成過程に関わる疾患に対する病態解析・創薬において、有用なアプローチであると期待できる。

著者コメント

 iPS細胞を用いた難治性骨疾患の創薬研究を行うに当たり、化合物スクリーニングを目指した、短期間で安定した分化誘導系を確立するということが私のプロジェクトでした。既存の分化誘導法にレチノイン酸シグナルが加わると石灰化が亢進するという前任者の発見から、石灰化亢進のメカニズムの考察、骨形成不全症の病態再現を行い、また共同研究によるイメージングのご協力を得て、論文という形にすることが出来、大変うれしく思っております。この成果をもとに、難治性骨疾患の創薬へつながる研究が出来るよう、引き続き精進したい所存です。
 本研究を進めていくに当たり、ご指導および研究環境を与えて下さった、戸口田淳也先生、松田秀一先生にはこの場をお借りして心より感謝申し上げます。(京都大学iPS細胞研究所/ウイルス・再生医科学研究所・川井 俊介)