日本骨代謝学会

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咀嚼強化は骨細胞を活性化して頑健な顎骨をつくりあげる

Forceful mastication activates osteocytes and builds a stout jawbone
著者:Inoue M, Ono T, Kameo Y, Sasaki F, Ono T, Adachi T, Nakashima T.
雑誌:Sci Rep. 2019 Mar 20;9(1):4404.
  • 咀嚼
  • 骨細胞
  • IGF-1

井上 維

論文サマリー

 咬合力と顎骨の形態との間には密接な関係があることが知られている。これまで、軟食飼育などの咀嚼力低下動物モデルを用いた顎骨の形態制御の解析が数多くなされてきた。一方、咀嚼力強化動物モデルを用いた報告はなく、強く噛むことが顎骨形態にどのような影響を与えるかは不明であった。そこで、本研究では新規咀嚼強化マウスモデルを確立し、咀嚼強化が顎態に与える影響とそのメカニズムの解析を行った。

 圧縮強さが通常飼料(ND)の3倍の飼料(HD)を作製し、3週齢のマウスに11週間与えた。HD飼育マウスではND飼育マウスと比較して咀嚼回数および咀嚼時間の上昇が認められた。HD飼育マウスでは咬筋線維幅径が有意に増加した。また大脳皮質一次運動野を組織学的に評価したところHD飼育マウスでは神経活動性を示すcFosの発現細胞数が有意に増加し、咀嚼強化マウスモデルが確立された

 生体での顎骨の評価に先立ち、コンピューターシミュレーションによって咬筋の牽引力が下顎骨形態に与える影響の解析を行なったところ、下顎骨咬筋付着部の突出と下顎枝高の減少を引き起こすことが予測された。下顎骨CT画像を用いた形態学的解析において、HD飼育マウスでは下顎枝高の減少、臼歯歯軸の舌側傾斜ならびに咬筋停止部の突出が認められ、シミュレーションの結果と一致した。そこで咬筋腱付着部の骨の突出を組織学的に解析したところ、骨芽細胞数の増加が認められ、さらに同部の骨組織ではIGF−1の発現上昇とSclerostinの発現低下が見出された。また、細胞培養実験では伸展による力学的荷重が骨細胞のIGF-1の発現を上昇させ、荷重を加えた骨細胞株の培養上清が腱由来細胞の骨芽細胞分化を促進した。そして、この促進効果はIGF-1の中和抗体添加によって消失することが示された。

井上 維

 これらの結果から顎骨骨組織内の骨細胞が咀嚼強化による荷重に応答しIGF-1やSclerostinなどの生理活性物質の発現を変化させて骨リモデリングを制御していることが示唆された。

井上 維

 私は東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科咬合機能矯正学分野に入局後、分子情報伝達学分野にて研究を行なって参りました。本研究は小野卓史教授、中島友紀教授、林幹人助教、佐々木文之特任研究員そして本研究論文の共同筆頭著者である小野岳人助教、多くの研究室メンバーに指導を賜りながら遂行することができました。また、顎骨リモデリングのコンピューターシミュレーションに際しては京都大学ウイルス・再生医科学研究所生命システム研究部門、安達泰治教授、亀尾佳貴助教にご尽力いただきましたことをこの場で深く感謝申し上げます。(東京医科歯科大学 咬合機能矯正学分野・井上 維)