日本骨代謝学会

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過剰なメカニカルストレスはgremlin-NF-kBパスウェイを介して関節軟骨の変性を促進する

Excessive mechanical loading promotes osteoarthritis through the gremlin-1-NF-κB pathway.
著者:Chang SH, Mori D, Kobayashi H, Mori Y, Nakamoto H, Okada K, Taniguchi Y, Sugita S, Yano F, Chung UI, Kim-Kaneyama JR, Yanagita M, Economides A, Canalis E, Chen D, Tanaka S, Saito T.
雑誌:Nat Commun. 2019 Mar 29;10(1):1442
  • メカニカルストレス
  • 変形性関節症
  • NF-κBシグナル

張 成虎

論文サマリー

 関節軟骨への過剰なメカニカルストレスは変形性関節症(OA)の発症機序の主因であるが、その分子メカニズムは十分に解明されていない。我々は関節軟骨細胞に過剰なメカニカルストレスを与えて遺伝子の発現変化をスクリーニングし、得られた候補分子を解析した。

 マウス膝関節より採取した初代関節軟骨細胞に対して細胞伸展装置を用いて0.5Hz、10%の伸展負荷を30分間与え、24時間培養後にmRNAを回収しcDNAマイクロアレイを行った。伸展負荷後に発現上昇を示す候補遺伝子の中で最も発現量の多い分泌タンパクGremlin1(以下Grem1)に注目した。Grem1は伸展負荷、静水圧負荷後に発現が増加しマウスOA、膝関節軟骨ヒトOA膝のサンプルではOAが進行するにつれて細胞膜に強く検出された。マウス大腿骨頭の器官培養や初代関節軟骨細胞をrhGREM1存在下に培養するとcatabolic factorの発現が上昇し、anabolic factorの発現が低下した。in vivoではマウス膝OAモデルにrhGREM1の関節内注射を実施したところOAが進行することが確認され(図1)、反対にGrem1中和抗体の関節内注射や関節軟骨特異的にGrem1を欠失させたマウスのOAモデルではOAの進行が抑制された。

張 成虎

 NF-κBシグナルの代表的な転写因子であるRelaのノックアウトマウスの関節軟骨を用いた実験や、NF-κBシグナルの阻害剤、VEGFR2の阻害剤を用いたin vitroの実験でGrem1の関節軟骨に対するcatabolicな作用はGrem1-Vegfr2-NF-κBシグナルを介することが明らかとなった。さらに、マウス初代軟骨細胞、ATCD5セルラインを用いた実験でメカニカルストレスで誘導されるRac1-ROS-NF-κBシグナルがGrem1の上流シグナルであることが明らかとなった。

 シグナルがGrem1の上流シグナルであることが明らかとなった。 本研究で過剰なメカニカルストレスによって誘導される分泌タンパクGrem1は、Rac1-ROS-NF-κBシグナルを介して誘導されGrem1-Vegfr2-NF-kB signalを介して関節軟骨の変性を促すことが判明した(図2)。

張 成虎

 変形性関節症は高齢者の健康寿命を脅かす代表的な疾患ですが、進行を止める治療薬はいまだに存在しません。肥満、重労働、関節の外傷など、過剰な力学的負荷が関節軟骨を変性させることは古くから知られていますが、その分子メカニズムは分かっていませんでした。本研究が今後の変形性関節症治療開発の一助となることを期待しております。基礎研究のことを何も知らなかった筆者を一から忍耐強く懇切丁寧にご指導頂いた東京大学整形外科学教室 齋藤琢准教授はじめ田中栄教授、研究を手伝って頂いた先輩、後輩の先生方に深く感謝致します。(東京大学医学部整形外科・張 成虎)