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Runx1は関節軟骨の保持と変性抑制に関与している

Runx1 contributes to articular cartilage maintenance by enhancement of cartilage matrix production and suppression of hypertrophic differentiation.
著者:Yano F, Ohba S, Murahashi Y, Tanaka S, Saito T, Chung UI.
雑誌:Sci Rep. 2019 May 21;9(1):7666.
  • Runx1
  • 関節軟骨
  • 変形性膝関節症

矢野 文子
共著の先生方(田中教授、村橋先生、斎藤准教授)と筆者の所属する東大整形の研究室の皆さん

論文サマリー

 我々は、Runx1が軟骨形成分化マーカー2型コラーゲンのプロモーターに直接結合し、Sox5, Sox6と相互作用して、軟骨基質を促進的に誘導し、Runx1は変形性関節症(OA)の抑制遺伝子として、強く関与していることを報告した(Ann Rheum Dis 72:748, 2013)。今回、Runx1のOAに関する軟骨分化制御機構について解析した。

 関節軟骨の維持にRunx1の発現調節が関与している可能性を検証するためにCol2a1-Cre;Runx1fl/flマウスを作出した。OAモデルを作成し、関節軟骨の保持と変性について組織学的に検証した結果、関節軟骨特異的にRunx1を欠如させたマウス(Col2a1-Cre;Runx1fl/fl)ではコントロール群(Runx1fl/fl)に比べて、明らかに軟骨の変性と骨棘形成が促進されていた。Runx1fl/flマウス正常関節軟骨細胞にアデノウイルスでRunx1を強制発現させた細胞群、CreアデノウイルスでRunx1を欠損させた細胞群でRunx1が標的とする遺伝子を調べると、Bapx1がRunx1の下流の分子である可能性が高いことが示唆され、マウス関節軟骨における発現を免疫染色で確認すると、Runx1と同様に正常関節軟骨最表層から関節軟骨全体に発現していることが示された。また、Sox5, Sox6, Sox9もRunx1の発現と同調して発現しており、Runx1はSox5, Sox6, Sox9とそれぞれ、タンパク結合し、軟骨基質合成を促進させていることが示された。Bapx1ノックアウトレンチウイルスを用いて、Runx1の発現を解析したところ、Bapx1の欠損状態ではRunx1は軟骨分化を制御することができなくなり、Runx1はBapx1を一部、介して軟骨肥大化を抑制していることが示唆された。

 Runx1は関節軟骨の保持と変性抑制に関与していることが示唆され、そのメカニズムのひとつはSox5, Sox6, Sox9と相互作用し、軟骨基質を促進的に誘導し、Runx1下流の分子Bapx1とともに、OA治療への応用が期待される。

矢野 文子

 2013年に関節軟骨におけるRunx1の役割を報告した際に今回のデータの一部を解析しており、なぜ、RunxファミリーのひとつであるRunx1がRunx2、Runx3と異なる軟骨分化制御機構があるのか、疑問に思っていました。理想的にはドメイン別、変異体の解析で明らかにしたかったのですが、なかなか難しく、下流の分子Bapx1に着目することにしました。実験の立案から考察を一緒に考えてくれた、同期の大庭伸介先生、大学院生の頃より指導してくださっている鄭雄一先生、現在、所属する東大整形の田中栄先生、齋藤琢先生、リバイス実験を一緒に行ってくれた村橋靖崇先生にこの場をお借りして、心より御礼を申し上げます。この論文のリバイス実験は国際共同研究を行うためにBostonに滞在している期間に始まったため、だいぶ時間がかかりましたが無事に報告できて、ほっとしております。(東京大学整形外科 骨・軟骨再生医療寄附講座・矢野 文子)

矢野 文子
大学院生の時からのMentor・鄭教授と in Boston