日本骨代謝学会

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IL-6・可溶性IL-6受容体はSTAT3依存性にJMJD2BによるRUNX2のヒストン脱メチル化を介してヒト血管平滑筋細胞の骨芽細胞様細胞への分化を誘導する

IL-6 and sIL-6R induces STAT3-dependent differentiation of human VSMCs into osteoblast-like cells through JMJD2B-mediated histone demethylation of RUNX2.
著者:Kurozumi A, Nakano K, Yamagata K, Okada Y, Nakayamada S, Tanaka Y.
雑誌:Bone. 2019 Apr 11;124:53-61. doi: 10.1016/j.bone.2019.04.006.
  • IL-6
  • 血管平滑筋細胞
  • ヒストン修飾

黒住 旭

論文サマリー

 炎症や血管石灰化は心血管イベントの独立した危険因子である。血管平滑筋細胞(VSMC)は酸化コレステロールや炎症など様々な刺激によって骨芽細胞様細胞へ形質転換するが、炎症性刺激下における詳細な分子機構は不詳である。そこで、今回我々は炎症性サイトカインによるヒトVSMCから骨芽細胞様細胞への形質転換のメカニズムについて、特にエピジェネティクスに焦点を当てて検討した。

 健常人大動脈由来のVSMCを骨芽細胞誘導培地で培養し、各種炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1β)で刺激し各実験を行った。IL-6・可溶性IL-6受容体(sIL-6R)刺激はVSMCの石灰化を最も強く誘導し、石灰化誘導のマスター遺伝子であるRUNX2を有意に上昇させた。またRUNX2発現誘導や石灰化増強は、STAT3の遺伝子ノックダウンにより完全に抑制された。ChIP-PCRを用いてRUNX2プロモーター領域のSTAT結合部位でのヒストン修飾を検討したところ、20分間のIL-6/sIL-6R刺激によって転写抑制を示すH3K9me3(trimethylated histone 3 lysine 9)は強く抑制されたが、転写促進を示すH3K4me3は変化せず、ヒストン脱メチル化酵素であるJMJD(jumonji domain-containing protein)2Bの増強を認めた。またJMJD2阻害薬であるJIB04は、IL-6・sIL-6RによるRUNX2誘導を濃度依存性に抑制した。

 以上の結果から、RUNX2のプロモーター領域において、転写の促進に関与するH3K9me3と抑制に関与するH3K4me3がRUNX2の転写を協調的に調節しているが、IL-6・sIL-6R刺激によってリン酸化STAT3が増強するとJMJD2BとともにSTAT結合部位にリクルートされることで、H3K9me3が抑制されH3K4me3優位のヒストン修飾によってRUNX2の転写が誘導されることが示唆された。IL-6/STAT3/JMJD2B系がVSMCの骨芽細胞様細胞への分化にコミットするとの結果は、慢性炎症による血管石灰化のメカニズムの解明や治療応用に資するものと思われる。

黒住 旭

黒住 旭

 今回の研究内容は私が産業医科大学大学院で行った基礎研究です。私は糖尿病学会と内分泌学会の専門医で、大学院に進学するまでは主に臨床研究を行ってきました。普段診療してきた糖尿病や内分泌疾患の患者様は大血管障害による死亡率が高く、血管石灰化のメカニズムを明らかにしたいと思い、このテーマを選びました。大学院での研究は、それまでと違った観点からより理論的に物事を考えるきっかけになり非常に勉強になりました。基礎研究に関して全くの素人であった私を、熱心に指導して下さった田中良哉教授をはじめとした諸先生にはこの場をお借りして心から感謝を申し上げます。(産業医科大学医学部第一内科学講座・黒住 旭)