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エラスターゼ誘導性肺気腫マウスにおける骨形成障害を伴う全身性骨量減少とⅠ型筋線維萎縮:COPDに伴う筋骨格系疾患モデル動物の確立

Systemic bone loss, impaired osteogenic activity and type I muscle fiber atrophy in mice with elastase-induced pulmonary emphysema: Establishment of a COPD-related osteoporosis mouse model.
著者:Tsukamoto M, Mori T, Wang KY, Okada Y, Fukuda H, Naito K, Yamanaka Y, Sabanai K, Nakamura E, Yatera K, Sakai A.
雑誌:Bone. 2019 Mar;120:114-124. doi: 10.1016/j.bone.2018.10.017.
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 骨粗鬆症
  • サルコペニア

塚本 学
臨床・基礎研究とも常にお世話になっております、新小倉病院 整形外科部長 森 俊陽 先生(左)でございます(右は著者)。普段から、よく一緒に飲んでおりますが、ちゃんとした写真は、この一枚だけでした(笑)。こんな私ではございますが、今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。

論文サマリー

 ヒトにおいて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺内病変の他にも肺外病変として骨格筋や骨への障害が指摘されており、骨粗鬆症のリスクファクターとされている(Rabe KF. AJRCCM 2007, Kjensli A. Bone 2007)。COPDを発症している患者では、その24〜39%が骨粗鬆症と診断されており (Watanabe R. JBMM 2014)、椎体骨折有病率は24~63%と報告されている(Lehouck A. Chest 2011)。COPD患者の肺組織の所見は、肺胞隔壁の消失を伴う肺気腫を主体としており、肺の気腫化と胸椎骨密度は負の相関を示す(Ikezoe K. Respir Med 2015)。一方、COPD患者では、下肢の筋萎縮、筋線維構造の変化、筋線維中のミトコンドリア密度の低下を認め、筋肉の障害に関する報告もある(Bernard S. AJRCCM 1998, Maltais F. AJRCCM 2014, Gosker HR. Eur Respir J 2007)。このように、COPDという病態が筋や骨に影響を及ぼすことが示唆されているにもかかわらず、その詳細な病態メカニズムについては未だ不明である。病態解明のためにはモデル動物を用いた研究が必要であるが、適切なCOPD骨粗鬆症モデル動物が無い。COPDに伴う筋骨格系疾患の病態解明のためのモデル動物を確立すべく、エラスターゼ誘導性肺気腫マウスの骨および筋肉における変化を評価した。

 肺気腫マウスでは対照マウスと比して、脊椎における骨密度変化率が各時点で低値を示し(気管内投与後12週時点のT4骨密度変化率: 肺気腫マウス -9.2 % vs 対照マウス 4.4 %、T7: -11.3 % vs 5.0 %、T10: -12.2 % vs 1.8 %、L1: -13.5 % vs -1.3 %、L4: -10.6 % vs 0.8 %)、DXA法による脊椎の骨密度も有意に低値であった。骨形態計測では、腰椎や下肢骨の海綿骨領域における骨量減少(BV/TV・Tb.N・Conn.D 低値、Tb.Sp 高値)および骨形成障害(OS/BS・MS/BS・MAR・BFR/BS 低値)の所見を示した。更に、肺気腫マウスでは、ヒラメ筋のみ重量や筋線維断面積の減少を認め、II型筋線維(速筋)ではなくI型筋線維(遅筋)が萎縮していた(I型筋線維占拠率: 肺気腫マウス 16.5 % vs 対照マウス 34.8 %)。骨(第1腰椎・大腿骨遠位部 BV/TV)や筋肉(ヒラメ筋重量、ヒラメ筋線維断面積、I型筋線維占拠率)に関する各指標は、肺気腫の指標である平均肺胞壁間距離と有意に相関していた。

 エラスターゼ誘導性肺気腫マウスでは、骨形成障害を伴う全身性骨量減少とI型筋線維萎縮を認め、COPD骨粗鬆症・サルコペニアモデル動物として、その病態解明に寄与すると考えている。

塚本 学
図1: エラスターゼ誘導性肺気腫マウスでは、骨形成障害を伴う全身性骨量減少とⅠ型筋線維萎縮が生じる。上段から肺組織像、第1腰椎のマイクロCT画像、脛骨におけるカルセイン二重標識像、大腿四頭筋の蛍光免疫二重染色像(赤がI型筋繊維、緑がIIA型筋繊維)。

 COPDが骨や筋に与える影響因子は、未だ解明されておりません。当分野の更なる発展を目指して、我々の研究室では、本モデルを用いた新たな調査が既に開始されております。今後もCOPD骨粗鬆症・サルコペニア に関する研究成果を皆様にご報告できれば幸甚でございます。最後になりますが、新小倉病院 整形外科部長であります森 俊陽先生には、本研究において、多大なるご尽力を賜り心より感謝申し上げます。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。(産業医科大学 整形外科・塚本 学)