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TBX6遺伝子の両アレル変異は、先天性側弯症や脊椎肋骨異形成症を含む一連の脊椎と肋骨の形成異常を起こす

Bi-allelic Loss of Function Variants of TBX6 Causes a Spectrum of Malformation of Spine and Rib Including Congenital Scoliosis and Spondylocostal Dysostosis.
著者:Nao Otomo, Kazuki Takeda, Shunsuke Kawai, Ikuyo Kou, Long Guo, Mitsujiro Osawa, Cantas Alev, Noriaki Kawakami, Noriko Miyake, Naomichi Matsumoto, Yukuto Yasuhiko, Toshiaki Kotani, Teppei Suzuki, Koki Uno, Hideki Sudo, Satoshi Inami, Hiroshi Taneichi, Hideki Shigematsu, Kei Watanabe, Ikuho Yonezawa, Ryo Sugawara, Yuki Taniguchi, Shohei Minami, Kazuo Kaneko, Masaya Nakamura, Morio Matsumoto, Junya Toguchida, Kota Watanabe and Shiro Ikegawa
雑誌:J Med Genet. 2019 Sep;56(9):622-628.
  • TBX6
  • 先天性側弯症
  • 脊椎肋骨異形成症

大伴 直央

論文サマリー

 先天性側弯症(congenital scoliosis: CS)は脊椎奇形を有する側弯症、脊椎肋骨異形成症(spondylo-costal dysostosis: SCDO)は肋骨や脊柱に重篤な形成異常を来す骨系統疾患である。共に変形が重度な症例では、呼吸障害により最悪の場合は生命の維持が危ぶまれる。そのため、両疾患は厚生労働省の難治性疾患に登録されている。

 2015年に中国の研究グループから、中国人のCSの約10%が、脊椎の発生に関与する転写因子TBX6のリスクハプロタイプと、染色体の欠失やナンセンス変異など明らかな病的変異のヘテロ接合性により発症することが報告された(Wu et al. NEJM 2015)。先にSCDOでもTBX6の変異が報告されており(Sparrow et al. Hum Mol Genet 2013)、別疾患とされていた両疾患が、実は一連の疾患群である可能性が示唆されていた。また、中国のグループや他のグループから、欠失や明らかな病的変異以外の、病因性が不明なミスセンス変異がCSとSCDOのどちらにもみられることが報告されている。そこで共同研究グループは、CS 196例、SCDO 4例で、TBX6の変異を検索し、機能解析でミスセンス変異の病因性を解析し、表現型と遺伝型の関連を検討した。

大伴 直央

 変異検索の結果、TBX6を含む16p11.2の欠失を5つ、スプライスサイト変異を1つ、ミスセンス変異を5つ、新たに同定した。先に中国のグループが提唱したTBX6関連CSの発症モデル同様、CS例はすべて、変異の反対アレルにリスクハプロタイプを有していた。今回の日本人コホートにおけるTBX6関連CSの発生率は、全CSの約10%で、先の中国人での報告と同程度であった。

 次にTBX6のミスセンス変異の病因性を機能解析で検討した。新規および既報のミスセンス変異、計12変異を解析した結果、TBX6の転写活性の低下(図1A)とタンパク質の細胞内局在異常(図2B)の2種類の機能喪失機序を発見した。後者を示すミスセンス変異を8つ認め、これがミスセンス変異の主な病因であることがわかった。更に両アレルにタンパク質の局在異常を来すミスセンス変異を持つSCDO患者由来のiPS細胞を、TBX6が最も強く発現する体節形成期まで誘導した。その結果、誘導細胞でもタンパク質の細胞内局在異常を確認し、TBX6タンパク質の核内移行障害が疑われた。体節形成期のTBX6、およびその下流の遺伝子の発現も低下していることがわかった。

 表現型と遺伝型の関係を検討すると、両アレルに機能喪失変異を持つ症例は、より重症のSCDOの表現型を示した。TBX6の変異の重度(機能喪失の程度)に応じて表現型が重症になることが判明した。同様の表現型と遺伝型の関係が、脊椎の発生に関与するLFNGの変異でも報告されており(Takeda et al.Mol Genet Genomic Med 2018; Otomo et al. J Hum Genet 2019)、CSとSCDOは異なる疾患ではなく、変異の重度に比例した一連の脊椎と肋骨の異常を示す疾患群であることが明らかになった。

 私は、慶応大学整形外科に入局後、2017年より大学院生として理研の池川先生のチームで側弯症の遺伝子研究を行っています。CSの治療は、最後は外科手術しかなく、子供達が侵襲の大きな脊椎を矯正固定する手術を受けるのは、とても辛いものがあります。今後更にCSの病態を解明し、変異と表現型の関係を蓄積していくことで、遺伝カウンセリングなどの点で臨床に貢献できるよう努めたいです。
  今回の研究は、池川先生の指導と、サンプルの収集では日本全国の側弯の専門家の先生方、機能解析では京都大学・CiRAの先生方、そして遺伝子解析では横浜市立大学遺伝学教室の先生方の御協力のおかげでこのような形にまとめることができました。この場を借りて感謝申し上げます。(理化学研究所・骨関節疾患研究チーム/慶応大学整形外科・大学院・大伴 直央)