日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 中井 雄太

骨転移におけるRANKL低分子阻害剤の効果

Efficacy of an orally active small-molecule inhibitor of RANKL in bone metastasis.
著者:Nakai Y, Okamoto K, Terashima A, Ehata S, Nishida J, Imamura T, Ono T, Takayanagi H.
雑誌:Bone Res. 2019 Jan 3;7:1.
  • 破骨細胞
  • 骨転移
  • RANKL阻害剤

中井 雄太

論文サマリー

 骨は、肺、肝臓に次ぐ腫瘍の好発転移部位として知られている。骨転移を発症すると脊髄圧迫、骨折、骨痛といった症状を伴いQOLの低下を招く。腫瘍細胞は骨に転移すると、PTHrPやIL-6等のサイトカインの産生を介し、破骨細胞分化の必須サイトカインであるRANKLの発現を誘導し、骨吸収を促進する。その結果、骨基質中に含まれるIGF-1等の増殖因子が放出され、腫瘍細胞の増殖が促進される。また、RANKLは、乳がんや悪性黒色腫等の腫瘍細胞自身が発現する受容体RANKに作用することで、腫瘍細胞の骨組織への走化性を促すことも知られており、RANKL-RANK経路は、骨転移の有用な治療標的として考えられている。現在、RANKLの中和抗体であるデノスマブが破骨細胞の分化、活性化および生存を抑制することにより、多発性骨髄腫または骨転移における骨病変に対する治療薬として承認されている。一方で、RANKLを標的とする低分子阻害薬は治療薬の選択肢を増やし、医療費負担の軽減も望めることから、その開発は重要な課題である。本研究では、経口投与可能なRANKL低分子阻害剤AS2676293の骨転移における効果について検証を行った。まず、AS2676293は、in vitroにおいて破骨細胞前駆細胞の増殖および生存には影響を与えず、RANKLによる破骨細胞分化を阻害することを確認した。AS2676293はRANKL刺激によるJNK、IBおよびERKのリン酸化には影響を与えないものの、破骨細胞分化に必要な転写因子Nfatc1およびFosの発現を有意に抑えた。したがってAS2676293はRANKLに直接結合して作用するのではなく、RANKL-RANKシグナル阻害剤として作用することが示された。次に、溶骨性の骨転移を起こす乳がん細胞株を移植したマウスに対するAS2676293の効果を検討した。AS2676293の経口投与によって骨転移が有意に抑制され、マウスの生存日数も延長することができた。軟X線撮影では、in vivo イメージング解析で転移が観察された部位と相関し溶骨が認められたのに対し、AS2676293の投与により溶骨が減少した。骨転移により二次海綿骨および骨端部皮質骨領域において破骨細胞数が増加したが、AS2676293投与群では破骨細胞数が減少し、骨吸収も抑制された。一方、非溶骨性の骨転移を起こす悪性黒色腫細胞株を移植したマウスでは、AS2676293は骨量および破骨細胞数に影響を与えずに骨転移を阻害した。in vitroの細胞走化性実験から、AS2676293はRANKLによる悪性黒色腫細胞の走化性を直接抑制することが分かった。以上より、AS2676293は破骨細胞分化抑制および腫瘍の骨組織への走化性の阻害という2つの作用機序により、骨転移を抑制することを明らかにした。RANKL-RANK経路は骨転移だけではなく、乳がんの発癌や肺転移にも関与していることが報告されている。低分子阻害剤によるRANKL阻害療法は、デノスマブの適応疾患だけでなく、RANKL-RANK経路が関わる腫瘍疾患に対する新たな治療戦略としても大いに期待できる。

中井 雄太

 東京医科歯科大学 咬合機能矯正学分野に入局後、小野卓史先生から東京大学大学院医学系研究科免疫学教室(高柳広研究室)で研究を行う機会を頂きました。高柳研では骨転移について研究することとなり、がん細胞株をマウスの左心室から移入するという実験系の難しさから、マウスの解析を始めるまで半年程かかり、実験の難しさから幾度となく挫折しそうになりました。そのような中で、高柳広先生、岡本一男先生をはじめ共著者の先生方には辛抱強くご指導していただき、このような成果に結びつくことができました。この場をお借りし、御礼申し上げます。今後も、高柳研で学んだことを生かし、臨床に結びつくような研究を続けて参りたいと思います。(中井 雄太・東京大学大学院医学系研究科免疫学教室)