脊椎肋骨異骨症および脊椎胸郭異骨症モデルであるMesp2欠失マウスの中軸骨格発生における時空間的異常
著者: | Makino Y, Takahashi Y, Tanabe R, Tamamura Y, Watanabe T, Haraikawa M, Hamagaki M, Hata K, Kanno J, Yoneda T, Saga Y, Goseki-Sone M, Kaneko K, Yamaguchi A, Iimura T. |
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雑誌: | Bone. 2013 Mar;53(1):248-58 |
- 骨格形成
- 椎間板
- 軟骨
論文サマリー
脊椎肋骨異骨症(Spondylocostal dysostosis:SCDO)は軸骨格に強い変形をきたす先天性疾患である。近年同定された原因遺伝子群は体節の形成に重要な分節時計に関与する遺伝子であった。そのうちの一つであるMesp2はSCDOの類縁疾患である脊椎胸郭異骨症(spondylothoracic dysostosis :STDO)でも遺伝子変異が報告されている。本研究ではMesp2 欠損による軸骨格への影響とSCOD/STDOの形態的特徴について調査した。3D-CTでの観察を通してMesp2ノックアウトマウスの軸骨格の石灰化パターンはSCDO/STDOと類似していることを確認した。次にin situ hybridizationにより3つの細胞外基質(2型コラーゲン・9型コラーゲン・ファイブロモジュリン)の観察を行い、椎間板組織の挿入が減少していること、脊柱に沿って椎間板領域が縦走していることを発見した。このことは体節のFate Mapと前後極性から予測される結果とは異なっていた。
[1]体節の前方は椎体に、後方は椎体・椎間板になること
[2]Mesp2は体節の頭側になる運命決定に重要な役割をもっており、Mesp2が欠損することで体節は後方の性質のみ持つことが知られている。
上記2点から椎間板領域の拡大が予想されたが、異なった結果となった。加えて椎体領域の軟骨細胞分化にも影響がみられた。軟骨細胞の増殖能は増加していたが、軟骨細胞の最終分化が遅延していた。このことを我々はリン酸化1/5/8とリン酸化Smad2の蛍光免疫染色より取得した蛍光3次元イメージを半定量解析により示した。Mesp2ノックアウトマウスの椎体における軟骨細胞分化ではTGF-βとBMPシグナルの発現が乱れており、様々な分化段階の軟骨細胞が混在していた。pQCTを用いた解析でもMesp2ノックアウトマウスの椎体では石灰化度の低下を示し、他のデータと同様に内軟骨性骨化の遅延を示唆していた。本研究の結果から、SCDO/STDOの病態において、椎体・椎間板の空間的配置異常と椎体の分化遅延が関与することが示唆された。分節時計に関与する遺伝子は数百あると言われており、これらの遺伝子群のSNP (Single Nucleotide Polymorphism)解析等の網羅的な遺伝学的解析は、脊椎変形症や側湾症の原因究明に寄与する可能性が考えられる。
著者コメント
私がこの研究テーマと出会ったのは、順天堂大学大学院博士課程の大学院学生として、東京医科歯科大学の山口朗教授の研究室にお世話になっていた時でした。脊椎・椎間板の発生は形態学的にダイナミックな変化に富んでおり、研究指導教官である飯村先生と顕微鏡を覗きながら話す時間は充実したものでした。イメージング技術は良い画像を得るために試行錯誤する場面もありますが、可視化して観察することで新たな発見や着想を刺激してくれる魅力的な手法です。また、発生期の中軸骨格では骨・軟骨組織の分化・成熟が短期間に行われており今後も興味深い分野と考えております。本研究を通して非常に多くの先生方にサポート頂けたことに、心より感謝申し上げます。(順天堂東京江東高齢者医療センター・牧野 祐司)