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骨・脂肪・筋肉におけるWnt10aを介した生体内相互作用メカニズム解明に向けて

Findings as a starting point to unravel the underlying mechanisms of in vivo interactions involving Wnt10a in bone, fat and muscle.
著者:Tsukamoto M, Wang KY, Tasaki T, Murata Y, Okada Y, Yamanaka Y, Nakamura E, Yamada S, Izumi H, Zhou Q, Azuma K, Sasaguri Y, Kohno K, Sakai A.
雑誌:Bone. 2018 Oct 11;120:75-84. doi: 10.1016/j.bone.2018.10.009. [Epub ahead of print]
  • Wnt10a
  • ベージュ化
  • マイオスタチン

塚本 学
Wnt10a研究チーム発足!!前列左から、東華岳先生、著者、田崎貴嗣先生、後列左から、前門良子さん、周倩さん、張家赫さん、王克鏞先生、中島民治先生。みなさま、ご協力いただき有難うございました。今後とも宜しくお願い申し上げます。

論文サマリー

 ヒトにおけるWNT10A遺伝子欠損疾患は、歯爪皮膚異形成(OODD, odontoonychodermal dysplasia)であり、歯や皮膚に関しては、Wnt10a KOマウスを用いた研究成果が報告されてきた。我々もまた皮膚の創傷治癒に注目し、Wnt10a KOマウスを用いた研究成果を2018年に報告し(Wang KY, et al. PLoS One 2018)、この報告の中で、骨や脂肪の表現型として、大腿骨の骨密度低下や体脂肪量の減少を示した。Wnt10aはadipogenesis inhibitorとして報告されていたため、Wnt10a KOマウスにおける体脂肪量減少は、我々の予想に反する結果であった。ところが、この結果を支持する報告があり、Wntシグナルを阻害するスクレロスチンの高発現を示すGsαKOマウスでは、Wnt10a KOマウスと同様に体脂肪量の減少を認めていたのである。不思議なことに、Wntシグナルが阻害されていれば、筋肉量も減少しそうなものであるが、筋肉量については維持されていた。

 生体内での現象は、組織間の相互作用というものを考慮しなければならないが、その解析は容易なことではない。ひとまず、我々はWnt10a KOマウスの骨・脂肪・筋肉の組織学的な表現型についての調査を行い、生体内相互作用メカニズム解明に向けた手掛かりを探索することを試みた。

 Wnt10a KOマウスでは、大腿骨遠位部の海綿骨量減少や骨石灰化速度・骨形成速度低下を認めていた。また、骨髄内脂肪量の減少も生じており、osteocalcinやPPARγの発現低下を示した。皮下脂肪、内臓脂肪、肩甲部褐色脂肪量は全て減少しており、皮下脂肪中の白色脂肪細胞はベージュ化していた。海綿骨量や体脂肪量が減少する中で、筋肉量は減少せずに維持されていた。特に、Ⅰ型筋繊維(遅筋)を多く含むヒラメ筋においては、筋繊維はむしろ増大傾向にあった。また、Wnt10a KOマウスでは、皮下脂肪や腓腹筋内におけるmyostatinの発現が低下しており、体脂肪量減少や筋肉量維持の重要な因子である可能性が示唆された(図1)。本研究成果は、まだ初期の段階ではあるが、今後、骨・脂肪・筋肉におけるWnt10aを介した生体内相互作用を調査していく上で重要な所見となるであろう。

塚本 学
図1 骨・脂肪・筋肉におけるWnt10aを介した生体内相互作用(仮説)

 生体内で生じる現象の病態メカニズムを解明するためには、臓器・組織間ネットワークを考慮した研究が重要となってきます。このような研究を発展させていくためには、多くの研究者の協力と知恵が必要であり、本研究もまた沢山の先生方に助けていただきました。本当に有難うございました。その中でも特に、産業医科大学 共同利用研究センター 准教授であります王 克鏞先生には、本研究において、多大なるご尽力をいただき心より感謝申し上げます。今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。(産業医科大学 整形外科・塚本 学)