日本骨代謝学会

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IκBαキナーゼ阻害剤はNF-κB/Hif-2αを介して変形性関節症モデルマウスの病態進行を抑制する

Intra-articular administration of IκBα kinase inhibitor suppresses mouse knee osteoarthritis via downregulation of the NF-κB/HIF-2α axis.
著者:Murahashi Y, Yano F, Kobayashi H, Makii Y, Iba K, Yamashita T, Tanaka S, Saito T.
雑誌:Sci Rep. 2018 Nov 7;8(1):16475.
  • NF-κB
  • 軟骨細胞
  • 変形性関節症

村橋 靖崇

論文サマリー

転写因子NF-κBはRelファミリーに属するタンパク質の二量体であり、免疫応答や細胞生存に関わる多くの生命現象に関与している。過去に我々はRelaヘテロ欠損マウスにおいて変形性関節症(OA)の進行が抑制されるなど、NF-κBシグナル活性を適度に制御することがOA抑制に繋がりうることを報告した。
そこでIκBα kinase(IKK) 阻害剤をOAモデルマウスの膝関節内に投与することでNF-κB/Hif-2αを制御し、OAの進行を抑制しうるかを検証した。

C57BL/6Jマウスのオスに8週齢の時点で内側側副靭帯・内側半月板切除手術を行い、術直後からIKK阻害剤(50 nM-500 µM)の関節内注射を週3回、計8週間行った。組織学的変化をOARSI scoreで定量的に評価したところ、IKK阻害剤500 nM, 5 µM投与群ではVehicle群に比しOAの進行が有意に抑制されていた(図1)。

村橋 靖崇

IKK阻害剤を2週間投与した時点での免疫組織染色では500 nM以上の濃度においてHif-2α, MMP-13, ADAMTS-5の発現量の低下、リン酸化IκBαの低下が認められた。ヒト細胞でも同様の作用がみられるかを検証するため、人工膝関節手術サンプルよりヒト関節軟骨細胞を単離培養し、TNF-α/ IL-1βとIKK阻害剤を投与した。IKK阻害剤500 nM以上の投与にてリン酸化IκBα, Hif-2α, MMP-13, ADAMTS-5がmRNA, タンパクレベルで有意に抑制され、ヒト関節軟骨細胞でもその有用性が示唆された。一方でIKK阻害剤を高濃度(50 µM , 500 µM)で投与すると増殖アッセイでは細胞増殖が抑制され、TUNEL染色ではアポトーシスが誘導されていた。過去の報告にもあるようにNF-κBシグナル活性を高度に阻害するとアポトーシス誘導によりOAが進行するのではないかと推察された。

村橋 靖崇

IKK阻害剤を関節内に投与することによってOAの進行が有意に抑制され、その経路はNF-κB/Hif-2αシグナルの抑制を介することが示された(図2)。ヒト関節軟骨細胞でも同様の作用が確認され、IKKはOAの疾患修飾薬の標的候補として有望と期待される。

私は札幌医科大学整形外科に入局後、軟骨代謝の研究を求めて東京大学整形外科の齋藤琢先生の研究室に国内留学させて頂いております。変形性関節症はありふれた疾患で多くの症例の治療に取り組んでいたものの、その分子生物学的な知識は皆無であり、当初は困惑した毎日でした。しかし、齋藤先生含め研究室の同僚の支えや共著者の丁寧かつ的確なご指導をいただき、日々研究の魅力に吸い込まれていきました。このような形として研究をまとめることができたのは、東京大学整形外科の研究への情熱の積み重ねによるものと大変感謝しております。OAの進行予防に深く関わっているシグナルという知見を礎にOAの予防や治療につながっていくことを期待します。(東京大学整形外科・村橋 靖崇)