日本骨代謝学会

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Siglec-15分子標的治療薬はラットの成長骨格発達に影響を与えず骨量を増加させる

Siglec-15-targeting therapy increases bone mass in rats without impairing skeletal growth.
著者:Sato D, Takahata M, Ota M, Fukuda C, Tsuda E, Shimizu T, Okada A, Hiruma Y, Hamano H, Hiratsuka S, Fujita R, Amizuka N, Hasegawa T, Iwasaki N.
雑誌:Bone. 2018 Aug 2;116:172-180.
  • Siglec-15
  • 抗Siglec-15抗体
  • 小児骨粗鬆症

佐藤 大

論文サマリー

【背景】
小児でも骨形成不全症や内分泌異常などの疾病やステロイド剤投与により骨粗鬆症を基盤とした脆弱性骨折や骨格変形が生じることがある.そのため,稀少疾病ではあるものの小児骨粗鬆症治療薬には強い臨床的必要性がある.しかしながら,既存の骨吸収抑制剤には骨格成長障害や骨質異常発生の懸念がある.Sialic acid-binding immunoglobulin-like lectin-15(Siglec-15)は,破骨細胞分化因子でありながら遺伝子を欠損しても成長障害を起こさず,2次海綿骨だけが大理石病様表現形を呈するというユニークな特徴をもつ.これは成長帯付近に代償機構が存在するためである.そこで本研究では,抗Siglec-15抗体療法が成長期ラットの骨格成長や骨量にどのような影響を与えるかを検討した.

【方法】
6週齢の成長期雄性F344ラットにPBS(Ctl群)を週2回,Siglec-15抗体低用量(0.25mg/kg),中用量(1mg/kg),高用量(4mg/kg)(Siglec-15 Ab群)を3週間毎に,アレンドロン酸低用量(0.028mg/kg),高用量(0.14mg/kg)(BP群)を週2回の頻度でそれぞれ6週間皮下投与した.3週毎に縦断的に頭臀長・大腿骨長を測定し,12週齢時に安楽死させた.摘出した長幹骨と腰椎をマイクロC解析,骨密度測定,骨形態計測,組織学的検討,力学試験に供した.

【結果】
Siglec-15 Ab群では長幹骨の成長障害は起きず,用量依存的に骨密度と力学的強度が増加した.一方BP群では,Siglec-15 Ab群と同様に骨密度と力学的強度が増加したが,頭臀長,大腿骨長の低下や脛骨近位部の骨格成長障害が生じた.組織学的にも,BP群では成長帯付近の破骨細胞数の減少とともに成長帯軟骨の配列異常や一次海綿骨の吸収障害が観察されたが,Siglec-15 Ab群ではそのような異常は観察されなかった.

佐藤 大
図 薬剤による骨成長への影響
(A) 12週齢時点での脛骨近位部の3D-CT.(B)上段は脛骨近位部非脱灰組織標本をVillanuevaで染色した. 安楽死7日前(上矢印),3日前(下矢印)にカルセインを投与し,成長速度を求めた.中段は,脛骨近位部一次海綿骨領域のSafranin O染色高倍率画像である.下段は,脛骨近位部一次海綿骨領域をTRAP及びメチルグリーンで染色した.(C-E)骨形態計測の結果を示す. (Data shown are mean ± SD). *; p<0.05 (vs. Ctl)

【考察】
 抗Siglec-15抗体療法は,骨格成長に影響を与えずに骨密度と力学的強度を増加させる小児骨粗鬆症に理想的な薬効をもつことが示された.

著者コメント

 本研究は第一三共株式会社との共同研究であり,当グループが長年取り組んできたSiglec-15に関する研究成果を臨床にフィードバックするための重要なプロジェクトの1つです.Siglec-15抗体は成長期の骨成長に影響を与えずに治療効果を示す,今までにない革新的な小児骨粗鬆症治療薬となることが期待されます.本研究は健常ラットモデルを用いたものであり,病態モデルに対する治療効果が次の関心事項です.今後は病態モデルを用いた検討を行い,臨床応用へ向けた研究成果の蓄積を目指します。最後に本研究にあたり,高畑雅彦先生をはじめご指導いただきました先生方と,抗体のご提供とデータ解析にご尽力いただいた第一三共株式会社,組織学的解釈についてご教授を頂きました北海道大学大学院歯学研究科網塚憲生教授,長谷川智香先生にこの場を借りて深く感謝を申し上げます.(北海道大学大学院医学研究院 専門医学系部門 機能再生医学分野 整形外科学教室・佐藤 大)