日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

JP / EN
入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

1st Author

TOP > 1st Author > 小田垣 直弥

歯根膜から分泌されるSclerostinはパラクリン作用を介して骨細胞のSOST/Sclerostin発現を制御する

Role of Osteocyte-PDL Crosstalk in Tooth Movement via SOST/Sclerostin.
著者:Odagaki N, Ishihara Y, Wang Z, Ei Hsu Hlaing E, Nakamura M, Hoshijima M, Hayano S, Kawanabe N, Kamioka H.
雑誌:J Dent Res. 2018 Nov;97(12):1374-1382.
  • Sclerostin
  • 骨細胞
  • 歯根膜線維芽細胞

小田垣 直弥

論文サマリー

 矯正的歯の移動は,圧迫力・牽引力という2種類のメカニカルストレスに対する歯根膜の応答と歯槽骨のリモデリングによってなされており,圧迫側においては骨吸収が,また牽引側においては骨形成が生じる。近年では,矯正的歯の移動時の歯槽骨リモデリングにおけるSclerostin(Scl)の役割に関する報告が散見され,Sclが矯正的歯の移動における骨リモデリングの調節因子である可能性が示唆されている。しかしながら,矯正的歯の移動によりSOST発現ならびにScl産生がどのように変化しているのか,その詳細は依然として明らかになっていない。そこで,我々は矯正的歯の移動におけるSOST/Sclが果たす役割の解明を目的に,まず矯正的歯の移動によるScl産生および歯根膜への圧迫負荷に対するSOSTならびにScl産生の変動を解析し,その調節機構における歯根膜と骨細胞との相互連関について検討を行った。

小田垣 直弥

 まず我々は,マウスの臼歯に対する矯正的歯の移動モデルを用いた解析により,圧迫側歯槽骨におけるScl産生を確認した。その結果,圧迫側は5日目をピークに10日目まで有意な上昇が見られた。

 次に単離ヒト歯根膜線維芽細胞(hPDL)に対し圧迫負荷を行ったところ,SOSTおよびReceptor activator of NF-kappaB ligand (RANKL)は,弱い圧迫負荷で発現が減少し、強い圧迫負荷で発現が増加するという二相性の発現調節を受けた。またMLO-Y4への連続的圧迫負荷により,SOSTおよびOPGは減少し,RANKLおよびRANKL/OPG比は増加した。

 上記の結果を受けて,実際の矯正的歯の移動における圧迫側を想定したhPDLおよびMLO-Y4の間接的共培養モデルを作製し,hPDLへの圧迫負荷環境下で培養を行い,骨代謝関連遺伝子の変動を定量RT-PCR法にて評価した。この結果,MLO-Y4のSOSTは約3倍に増加し,RANKLおよびOPG,RANKL/OPG比は変化しなかった。抗Scl中和抗体の前投与は,圧迫負荷に伴うhPDLおよびMLO-Y4のSOST増加を有意に抑制した。

 この実験結果から,歯根膜由来のSclを介したパラクライン機構が,歯槽骨代謝における主要なメディエーターである可能性が示唆された。また,なぜ矯正的歯の移動により生じる圧迫力が,歯槽骨においてSOSTならびにScl産生の増加を引き起こすのか,本研究によりその理由の一端が示唆された。

小田垣 直弥

著者コメント

 大学院生として歯科矯正学分野に入局し,結果を出す難しさを日々感じながら地道に進めていった研究生活でしたが,右往左往,試行錯誤した結果,本研究をまとめることができました。上岡寛教授,石原嘉人先生にご理解と温かいご指導を賜り,同じ大学院生であったWang Ziyi先生,Ei Ei Hsu Hlaing先生をはじめとした共同研究者の先生方にご協力頂けたことに,この場をお借りして心より感謝申し上げます。本論文を励みに,今後も臨床と研究に日々精進したいと考えております。(岡山大学病院 矯正歯科・小田垣 直弥)