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日本人二次性変形性股関節症の関節軟骨細胞における網羅的遺伝子発現解析

A whole-genome transcriptome analysis of articular chondrocytes in secondary osteoarthritis of the hip.
著者:Aki T, Hashimoto K, Ogasawara M, Itoi E.
雑誌:PLoS One. 2018 Jun 26;13(6):e0199734.
  • 二次性変形性股関節症
  • 軟骨細胞
  • 網羅的遺伝子解析

秋 貴史

論文サマリー

 変形性関節症 (Osteoarthritis; OA) は,関節軟骨の変性により関節痛や変形が生じる疾患である.その病因には加齢や力学的負荷,遺伝的要因等が関わるとされるが,その発症や進行の主因は未だ不明である.近年,網羅的遺伝子発現解析の著しい発展により,OA軟骨細胞における遺伝子発現パターンが解明されている.これまでの報告は特定の誘因がない一次性股関節OAに関する欧米からの研究がほとんどで,臼蓋形成不全を主因とした二次性股関節OAが大部分を占める日本人を対象とした報告は存在しない.本研究では,マイクロアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析により,日本人の二次性股関節OAの関節軟骨細胞における特定の遺伝子発現パターンを調査し,一次性OAの遺伝子発現解析データと比較して,二次性OAの特異性について検証を行った.

 大腿骨頚部骨折 (非OA群) と二次性変形性股関節症 (OA群) に対する手術で摘出した骨頭から軟骨片を採取し,total RNAを抽出した.RNAの質的基準を満たす検体 (非OA群 8例,OA群 12例) を3D-Geneマイクロアレイ (TORAY) を用いて解析した.解析した全24,460遺伝子のうち,非OA群よりOA群で発現が上昇したものは888遺伝子,低下したものは732遺伝子であった.OA群で顕著な発現を示した遺伝子はII型コラーゲン (COL2AI) などの細胞外基質 (extracellular matrix: ECM) を構成する因子を多く含んでいた.発現が亢進している遺伝子のうち,一次性OAと共通して変動している遺伝子は少なく,日本の二次性股関節OA軟骨細胞で著明な発現上昇を示した新規遺伝子として,DPT, IGFBP7, KLF2が同定された.

 本研究は日本人の二次性股関節OA関節軟骨における網羅的遺伝子発現解析をした初めての報告である.その遺伝子発現パターンは,これまで報告されてきた一次性OAの発現パターンと異なる一面を有している一方,機能解析やpathway解析においては共通点が多かった.本研究は各遺伝子発現の因果関係を解析するには至っておらず,本解析から得られた情報をもとに,各々の遺伝子発現調節のメカニズムについてさらなる検証を行っていく予定である.

秋 貴史
日本人と欧米人OAの発現遺伝子比較.
日本人と欧米人の発現上昇遺伝子数およびその関係性を示す.左側内側の円は非OA(N=8)とOA軟骨細胞(N=12)の総当り比較で有意な発現変動がみられた遺伝子数を示し(352遺伝子),3つの円の重複部は,両人種のOA軟骨において有意な発現増加がみられた遺伝子数(36遺伝子)である.

著者コメント

 OA軟骨細胞は,病期や軟骨状態に応じて様々な遺伝子発現パターンを呈するため,その遺伝子の解析によって,OAの病態解明に迫る重要な情報が得られると考えています.しかし,軟骨細胞は豊富な細胞外基質に囲まれ細胞数も僅かであるため,マイクロアレイ解析に堪える質の高い核酸を抽出し解析することが非常に困難とされます.本研究においても,核酸抽出の手技を確立するまでの道筋は難を極め,多くの時間を費やしました.基礎研究の右も左もわからなかった私ですが,論文として形にできたこと,またこのような研究成果をまとめる機会を頂けたことに私自身とても感動を覚え自信にも繋がりました.この成果と経験を糧とし今後も研究心をもって精進していきたいと思います.最後に,熱心な御指導とすばらしい研究環境を与え続けていただいた東北大学整形外科 井樋栄二教授,橋本功講師,ご協力いただいた多くの方々に心より感謝申し上げます.(東北大学整形外科・秋 貴史)