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TOP > 1st Author > 山本 健太

小分子化合物を用いた機能的なヒト骨芽細胞のダイレクト・コンヴァージョン

Direct phenotypic conversion of human fibroblasts into functional osteoblasts triggered by a blockade of the transforming growth factor-β signal.
著者:Yamamoto K, Kishida T, Nakai K, Sato Y, Kotani SI, Nishizawa Y, Yamamoto T, Kanamura N, Mazda O.
雑誌:Sci Rep. 2018 May 31;8(1):8463.
  • 骨芽細胞
  • ダイレクト・リプログラミング
  • TGF-β receptor inhibitor

山本 健太

論文サマリー

 骨粗鬆症、変形性関節症および歯周病に伴う歯槽骨吸収などの骨吸収性疾患は、長期臥床や栄養不良をもたらし、著しいADLとQOLの低下を招く。これら骨疾患に対して、患者本人の骨芽細胞を十分数作出して病変部に移植することができれば、極めて高い機能予後が得られると期待できる。実際、骨肉腫切除後の骨欠損部に、間葉系幹細胞(MSC)を含む骨髄細胞や脂肪由来細胞を移植する治療が行われており、高い効果を挙げている。しかし比較的若年の患者が多い骨肉腫と異なり、高齢者が多い骨粗鬆症、変形性関節症や歯周病の患者から骨髄や脂肪を採取することは、患者への侵襲が大きく、得られる細胞数も限られる。そのため低侵襲に採取できる体細胞(線維芽細胞など)から、骨芽細胞を直接誘導(ダイレクト・リプログラミングまたはダイレクト・コンヴァージョン)できれば理想的である。

 我々はこれまでに、ヒト線維芽細胞に少数の既知因子の遺伝子を導入することで、骨芽細胞へのダイレクト・リプログラミングに成功している(Yamamoto K et al., PNAS 2015)。しかしながら、再生医療に用いる細胞としては、遺伝子導入を行なわずに誘導した骨芽細胞がさらに望ましいと考えられる。そこで今回我々は、小分子化合物を用いたヒト骨芽細胞へのダイレクト・リプログラミングも試みた。その結果、1種の小分子化合物(TGF-β receptor inhibitor)を石灰誘導培地に添加して培養するだけで、遺伝子導入を行わなくてもヒト線維芽細胞(皮膚および歯肉由来)に骨芽細胞様のフェノタイプを誘導できることを見出した。様々なTGF-β receptor inhibitorsを比較検討した結果、誘導効率はSmad2/3リン酸化の抑制の程度に依存していること、ALK5 inhibitor II(Repsox)が最も効率良く石灰化骨基質産生を促すことが判明した。

 また、Repsoxに加えてvitaminD3も添加すると、誘導効率を約90%にまで向上できることも見出した。さらにこの方法で誘導した骨芽細胞(cOBs: chemical compound-mediated directly converted osteoblasts)を免疫不全マウスの人為的骨欠損部位に移植すると、線維芽細胞を移植した群と比べて顕著な骨再生を認めた。

 本研究結果は、新規骨再生医療の開発につながるのみならず、骨疾患の病態解明、新たな創薬にも有用であると考えられる。

著者コメント

 TGF-βはこれまでに、骨組織形成において非常に重要な役割を果たし、また骨組織再生を促進することが知られている。また一方で、TGF-βシグナルが骨芽細胞の分化をlater phaseにおいて抑制することも報告されている。したがって、TGF-βの骨芽細胞分化への影響は、ターゲット細胞の分化段階や微小環境、TGF-βの濃度、アイソタイプなどによって異なることが予想される。一方で、TGF-βシグナルの阻害はiPS細胞の誘導効率を上昇させることも知られており、TGF-βシグナルの阻害が体細胞のリプログラミングにおいて重要な役割を果たしていることが推察される。
  本研究では、遺伝子導入を行うことなく、ヒト線維芽細胞に骨芽細胞様のフェノタイプを誘導することは達成出来たが、そのメカニズムには不明な点が多い。今後は、そのメカニズムを解明するとともに、最適なスキャフォールドを用いて臨床に応用できる方法も模索していきたいと思っています。
  最後になりましたが、この度の論文発表に至るまで、熱心にご指導頂きました京都府立医科大学免疫学の松田教授、岸田准教授、そして実験を手伝って頂いた小谷さん、ならびにご協力頂きました歯科口腔外科学の先生方に感謝したいと思います。(京都府立医科大学大学院医学研究科 歯科口腔科学・山本 健太)