日本骨代謝学会

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V-ATPaseのa3アイソフォームはRab7のリクルートを介して分泌リソソームの移動に必須の役割を果たしている

Essential Role of the a3 Isoform of V-ATPase in Secretory Lysosome Trafficking via Rab7 Recruitment
著者:Matsumoto N, Sekiya M, Tohyama K, Ishiyama-Matsuura E, Sun-Wada GH, Wada Y, Futai M, Nakanishi-Matsui M.
雑誌:Sci Rep. 2018 Apr 30;8(1):6701.
  • 分泌リソソーム
  • V-ATPase
  • Rab7

松元 奈緒美
後列左より、關谷、矢野、河野。前列左より、中西、松元(後藤)。

論文サマリー

 破骨細胞による骨吸収には、「分泌リソソーム」が必要である。リソソームが骨側の形質膜へ向かって移動して細胞膜と融合することで、リソソーム酵素が骨吸収窩に分泌される。この時、リソソームに局在していたプロトンポンプV-ATPase(液胞型ATPase)は形質膜へ輸送されて骨吸収窩を酸性化し、リソソーム酵素による骨吸収を可能にする。しかし、リソソームが形質膜へ向かって移動するメカニズムの詳細は解明されていない。

 V-ATPaseは13種のサブユニットから成り、そのうち6種のサブユニットに細胞またはオルガネラに特異的なアイソフォームが存在している。プロトン輸送路を形成しているaサブユニットのa3アイソフォームは、破骨細胞への分化に伴い発現が誘導され、形質膜のV-ATPaseを構成していること、骨吸収に必須であることが知られていた。私たちは、V-ATPaseがプロトンポンプとしてだけでなく、リソソーム輸送においても必須であることを発見した。

 分泌リソソームの移動にV-ATPaseが関与している可能性を検討するため、a3欠損マウスの破骨細胞におけるリソソームの局在を調べた。驚いたことに、欠損マウスではリソソームの形質膜への移動が起きないことを見出し、a3がリソソームの移動に不可欠であることがわかった。a3と共にリソソーム輸送に関わる因子として、オルガネラの輸送に関与する低分子量Gタンパク質、Rabに注目した。Rab7のGDP型固定変異体を発現させたところ、リソソームの移動が起こらなかったことから、Rab7が移動に関与していることがわかった。さらに、a3とRab7の関連性について検討したところ、a3を欠損するとRab7がリソソームへ局在できなくなること、a3がGDP型のRab7と結合することを見出した。GTP型のRabと結合するタンパク質は数多く知られているが、活性化を担うグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)以外にGDP型と結合するものはほとんどなく、興味深かった。また、結合には特異性があり、a1、a2アイソフォームではRab7との結合は弱く、リソソームの移動にはa3が必要であることと一致する。移動に関与しないRab11Bとは結合しなかった。これらの結果から、a3はGDP型のRab7と特異的に結合することによりRab7をリソソームへリクルートし、その後Rab7は活性型となり、リソソームの形質膜への移動を開始すると考えた(図)。また、GTP型のRab7がリソソームに局在するためにa3が必須であることも見出した。a3はGTP型と結合しないにもかかわらず、どのようにGTP型Rab7のリソソームへの局在に関与しているのか、興味深い。

 本研究は、V-ATPaseがプロトンポンプ以外の機能を持つことを示している点がユニークで、また、分泌リソソームの分子メカニズムの一端を明らかにしたことに意義がある。骨粗鬆症や大理石病などの骨代謝疾患の発症メカニズムの解明や治療法の開発にも役立つと期待している。

松元 奈緒美
分泌リソソームにおけるV-ATPaseの役割

著者コメント

 a3欠損マウスは大理石病のため骨髄細胞が採取できず、脾臓マクロファージを用いた破骨細胞の分化誘導系の構築から始めました。ウイルスを用いた遺伝子導入系なども立ち上げる必要があり、研究の遂行には時間がかかってしまいました。しかし、系ができてからは、スタッフと協力しつつ、結果がでる日を心待ちにしながら研究しています。最近ではオートファジーなどの生理現象とリソソームの局在の関連について報告が増えていますので、今後は細胞のエネルギー状態とからめたリソソームの局在制御メカニズムを明らかにしていきたいと思っています。

 この論文は、研究室のスタッフをはじめとする多くの方々のサポートをいただき、発表することができました。支援して下さった全ての方々に、心より感謝申し上げます。(岩手医科大学薬学部生物薬学講座機能生化学分野・松元 奈緒美)