日本骨代謝学会

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FGF23によるリンおよびビタミンDの代謝調節は主として近位尿細管に発現するαKlotho/FGFR複合受容体を介して行われる

Central role of the proximal tubular αKlotho/FGF receptor complex in FGF23-regulated phosphate and vitamin D metabolism.
著者:Takeshita A, Kawakami K, Furushima K, Miyajima M, Sakaguchi K.
雑誌:Sci Rep. 2018 May 2;8(1):6917.
  • FGF23
  • FGF受容体
  • Klotho

坂口 和成

論文サマリー

 FGF23のリン代謝に対する作用は主として近位尿細管に存在するSodium-phosphate cotransporter(NPT2A & NPT2C)の発現調節により行われ、ビタミンD代謝に対する作用はやはり近位尿細管に存在するVitamin D 1α-hydroxylase(CYP27B1)や24-hydroxylase(CYP24A1)の発現調節を介すると考えられている。FGF23の作用発現にはFGF受容体(FGFR1, FGFR2, FGFR3, FGFR4)に加えてその共受容体としてのαKlothoが必須である。腎では当初αKlothoの発現は遠位尿細管に限られていると考えられていたため、遠位から近位へのフィードバック機構の存在を唱える者もいた。最近では近位尿細管でも低発現が認められるとされている。さらにαKlotho自体の糖鎖分解酵素としての作用を重視する研究者も存在する。これまでには、 一つの研究グループがαKlotho-FloxマウスでCre-LoxPシステムを用いて遠位および近位尿細管特異的conditional knockout (cKO)マウスを作製し、その研究結果を発表している。それらの結果では、どちらのcKOマウスもsystemic KOマウスの形質とは異なり軽度の異常を示すだけであり、結論としてFGF23の遠位および近位の両尿細管に対する作用が必要であるというものであった。しかし、私達は、これらの結果は研究に用いられたマウスのCre発現様式またはαKlotho-FloxマウスゲノムにおけるloxP挿入部位特異性に起因するものではないかと考えた。そのため、独自にαKlotho-Floxおよび4種類のFgfr遺伝子のFlox併存マウスであるFgfr1-4-Floxマウスも作製した。近位尿細管特異的なtamoxifen誘導性のCre発現マウスとして京都大学柳田素子教授等が作製したNdrg1-CreERT2マウスを使用させていただいた。Ndrg1-CreERT2;αKlothoflox/floxおよびNdrg1-CreERT2;Fgfr1-4flox/floxの両マウスを用いて生後6週でtamoxifen誘導をかけ、生後9週目で形質を調べた。血中リン、FGF23および1,25(OH)2vitamin D値の上昇、腎内の異所性石灰化、成長遅延、骨粗鬆症および寿命の短縮などが認められた。これらの形質はαKlothoおよびFgfr1-4の両方のcKOマウスで同様であり、またαKlotho systemic KOマウスとほぼ同様であった。以上から、近位尿細管に発現するαKlotho/FGFR複合受容体を介するFGF23シグナルがリンおよびビタミンDの代謝には重要であり、αKlotho自体の酵素作用はこれらの機能にほとんど大きな意味を持たないことを証明した。

坂口 和成
私たちの論文の結論を図式化したもの。αKlothoおよびFGFRは細胞膜貫通型分子である。T字型線および矢印線は、それぞれ抑制および刺激を示している。点線は機能減弱ないし喪失を示している。

著者コメント

 この論文中のNdrg1-CreERT2を使ったαKlothoの近位尿細管特異的cKOマウスに関しては、1st Authorの武下が2016年に学会発表して日本骨代謝学会優秀演題賞を受賞し、また同年ASBMR年次総会でもYoung Investigator Award演題に選ばれたものである。しかし、彼女の産休および育休の時期に当たってしまい、ASBMRでは坂口が代わって発表し、近位尿細管特異的Fgfr1-4 cKOマウスに関しては武下復帰後に解析を実施して論文を完成させた。ASBMRでは、Harvard Dental School とKarolinska Instituteの共同研究グループが近位尿細管特異的cKOマウスに関する研究結果を発表した直後であり、結果が私達とは異なったため、その理由に関する質問が6-7件あった。使用したCre発現マウスが異なり、遺伝子cKOの細胞特異性と効率が重要であることを説明して全て納得してもらったことを記憶している。発表後には米国および欧州の古くからの友人も意見交換のために集まってくれ、彼等自身の別観点からの研究結果を基に私達の結果を支持してくれた。その後、全ての解析結果を含めて論文を投稿したが、Nat CommunCell RepおよびJASNは科学的に正当な理由なくEditorレベルで拒否された。Sci Repにおいて初めて査読に回ったが、既出版の論文とは異なる結果ということでRefereeから妥当性のないコメントが多数送られた。1人のRefereeはかなり感情的で非合理的なコメントが多かったが、全て論理的に説明して納得して頂いた。近位尿細管特異的にCreを発現するために用いたNdrg1-CreERT2マウスは、京都大学の柳田素子教授等により作製されたものであり、柳田教授にはマウスを使用させて頂いただけではなく、お忙しい中大変貴重なご意見を多数頂いた。著者に値する貢献度があり、著者に入って頂くことをお願いしたが、ご自身の貢献度が十分ではないと固辞された。この場を借りて御礼申し上げたい。(和歌山県立医科大学先端医学研究所分子医学研究部・坂口 和成)