日本骨代謝学会

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希少疾患研究より学んだこと、新たな展開へ

紹介論文:Ubiquitin ligase RNF146 coordinates bone dynamics and energy metabolism.
J Clin Invest. 2017 Jun 30;127(7):2612-2625.

RANKL coordinates multiple osteoclastogenic pathways by regulating expression of ubiquitin ligase RNF146.
J Clin Invest. 2017 Apr 3;127(4):1303-1315.

Reciprocal stabilization of ABL and TAZ regulates osteoblastogenesis through transcription factor RUNX2.
J Clin Invest. 2016 Dec 1;126(12):4482-4496
  • チェルビズム
  • 3BP2
  • チロシンキナーゼ

松本 佳則
筆者のfarewell party (2017年3月17日、ラボのランチルームにて)。
右端がRobert Rottapel。

論文サマリー

 常染色体優性遺伝病“Cherubism”をご存じであろうか?幼児期に発症し、顔面骨を中心に炎症性骨破壊や歯牙の脱落をきたす疾患で、2001年にアダプター蛋白“3BP2”の1アミノ酸変異が同定された(Ueki Y et al. Nat Genet, 2001)。3BP2は下流のチロシンキナーゼを活性化し、シグナル伝達の仲介役となる蛋白だが、なぜ3BP2の変異が炎症性骨破壊をきたすのか、その後10年以上分からなかった。私が留学したUniversity of Toronto, Prof. Robert Rottapel研究室は2011年にそれを解明し、3BP2変異による自身の代謝障害から3BP2の細胞内蓄積が起こり、その結果生じるSRC/Sykリン酸化による破骨細胞異常活性化がCherubismにおける骨破壊発症のメカニズムであると報告した(Levaot N et al. Cell, 2011; Guettler S et al. Cell, 2011)。

 留学直前に報告された以上の結果から私は、3BP2の正常な代謝が恒常性維持に極めて重要であり、3BP2の代謝障害が骨代謝異常をはじめ様々な疾患を発症させるのではないかと考え、3BP2代謝に関わる因子のコンディショナルノックアウトマウスを作製し、生体内での機能解析を行った。

 その結果は予想を超えるものであった。まず私は、3BP2をユビキチン化させるE3-ligase、RNF146 の単球・マクロファージ分画でのノックアウトマウスを作製し、同マウスが破骨細胞の異常活性化による骨粗鬆症を呈すること、RNF146が破骨細胞分化を促進する3つの経路を統合する必須因子であることを見出した(図1)1。加えてRNF146の骨芽細胞分画ノックアウトマウスも作製し、同マウスの新生児が致死的な頭蓋骨欠損や肺胞形成障害を呈することを明らかにした2。更にこのマウスでは骨芽細胞の機能障害によるオステオカルシン産生低下からインスリン分泌能が低下し、耐糖能異常や脂質代謝異常が起こることも報告した2。またこれらの研究過程で私は、骨芽細胞において3BP2の基質蛋白である活性化ABLチロシンキナーゼとHippo経路の重要因子TAZがユニークな相互安定化を示し、その安定化が骨芽細胞必須転写因子であるRUNX2の転写活性を高め、骨芽細胞分化を促進する機序も明らかにした(図2)3

1 Matsumoto Y, Rottapel R et al. J Clin Invest. 127(4):1303-1315, 2017
2 Matsumoto Y, Rottapel R et al. J Clin Invest. 127(7):2612-2625, 2017
3 Matsumoto Y, Rottapel R et al. J Clin Invest. 126(12):4482-4496, 2016

 

松本 佳則
(図1)論文1のschematic model。RANKL誘導性NF-κBによるRNF146の転写抑制が3BP2、AXINの安定化を介して破骨細胞を制御する3つのシグナル経路を統合する。更にRNF146はTLRs-3BP2を介したサイトカイン産生を制御する。
(図2)論文3のschematic model。3BP2により活性化されるABLは、骨芽細胞必須のRUNX2:TAZ転写因子複合体の形成を促進する。ABL-TAZの相互安定化が骨芽細胞、脂肪細胞の運命を決定する。

著者コメント

 全世界で150人の希少疾患Cherubismの研究から私は多くの事を学びました。3BP2代謝に関わる因子の遺伝子変異や機能障害により、骨代謝だけでなくエネルギー代謝や胎生期の発育にも異常をきたすことが明らかとなり、これらの知見を免疫学、リウマチ・膠原病学、発生学、腫瘍学、歯科学など様々な領域の研究へと応用すべく、岡山で研究を進めています。
 最後に、なかなか結果の出なかった平凡な日本人研究者を5年半にわたり辛抱強く育ててくれたトロントの父、Robert Rottapelに心より感謝致します。(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学/Princess Margaret Cancer Center, University of Toronto, Canada・松本 佳則)